第七話

 私と優斗は手を繋ぎながら、玲さんとの集合場所である公園へ向かった。


 雲は薄暗く少し、雨が降りそうだ。


「優斗……」

「ん? どうしたんだ? 夜空……」

「うんうん、なんでもない……」と私はニコッとした。

「なんだそりゃ?」とクスっと笑いながら言う優斗。


 優斗と手を繋いでから世界が変わって見えた。

 今までとは違くてとても綺麗な世界に見えた。

 きっと、これは街灯なんかではなく優斗と一緒にいるからだ。

 優斗なら、私を裏切らない。

 優斗となら、私が私で居られる……。


「なぁ、夜空……俺ひとつ隠してたことがある……」

「どうしたの?」

「俺さ……玲と10年付き合ってて童貞なんだ……」


 その言葉を聞いた瞬間、ホッとした気持ちと罪悪感が重なり複雑な気持ちになった。

 私はすでに処女ではないからだ。

 そんなことを優斗に言ったら私は嫌われる……そんなことを思ってしまった。

 

「夜空がもう処女ではないことを俺は知ってる……まぁ、その事件かなり有名だからさ」

「そうなんだ……じゃぁ、動画のことも……」

「ぁあ、全部知ってるよ……」


 じゃぁ、なんで私を好きになったの……なんでなんで?

 普通の人ならそんなことを聞いたら、私となんて関わりたくなくなるはずだ。

 じゃぁ、なんで?


「でもさ、俺はそんなの別にどうでもいいんだ……だって、俺は夜空が……大空夜空が好きだからさ……」


 ぁあー、やっぱり私……この人を選んでよかったなぁ……。



 私と優斗はその後、公園に着くとベンチに座り玲さんを待った。

 待っている間は、とても気まずく黙って待っていた。


 すると、そこに玲さんが来た。


「なんで、夜空さん?」と愕然とした顔でこちらを見ていた。

「お、やっときたか……」と優斗は立ち上がり、玲さんのところへ歩く。


 公園は静かでカサカサっと優斗の砂の上を歩く音が響く。


「あのさ……玲……」


 その言葉を聞いた瞬間、玲はメスの顔になり「はい」と少し声を張って言った。


「俺と別れてくれ……」


 その一言で先程のメス顔は一瞬にして絶望の顔に変わった。


「言ってる、意味がわからないよ……」と玲さんは声を震わせながら言う。


 二人は10年も付き合っている、無理もない話だろう。


 次の瞬間、玲さんの目からは大量の涙が流れ落ちる。


「嘘だよね? ねぇ、嘘だよね?」と必死そうに言う玲さん。

 

 私は悪い子だ、その姿は少し無様に思えた。


「本当だよ……」


 その言葉を聞いた瞬間、玲さんの目からは更に大量の涙が流れ落ちた。


「意味がわからないよ、なんで? なんで……私のこと嫌いになっちゃった……?」


 次の瞬間、ザァーっと勢いよく雨が降り始めた。


 意味がわからない。

 その言葉を聞いた瞬間、私は思ってしまった。


 ぁあー、玲さんはバカだなぁ。と。



「あぁ、俺はお前が嫌いだ。殺したいほどに嫌いだ。お前も、俺の親友の翔吾も殺したいほど嫌いだ!」と優斗は怒鳴る様に言った。


 その姿は今までの出来事に耐えてきた優斗の辛さと憎しみがよく読み取れた。


 『後少しで、完全に優斗は私のものだ』


 あれ? 私……なに考えてるの……?

 

 玲さんは体を震わせながら「嘘だよね……ねぇ、嘘だよねぇ……」

「嘘なはずないだろ? 俺は、前にお前の家に財布を取りに行った時に聞いちまったんだよ……お前らが気持ちよさそうにしているのをさ……」

「そうだったんだね……」


 『よかった……これで、優斗は私のものだ』


 だから、私……。


「私の体自由にしていいからさ……お願い、一からやり直そうよ……」


 その言葉は全てを悟ったように聞こえた。


 やり直せるはずがない……。

 優斗が背負ってきた辛さは私も味わった事があるからこそよくわかる。


「そんな、汚い体、興奮しないよ。今の俺にはさ……だからさ、俺たち別れよ……」


 そう優斗は優しく言うと玲さんの前から消え、ベンチに座っている私のところへ来た。


 『やった、優斗は私のものだ……』


 だから、やめて私……。


 優斗がこっちに帰ってきた時には目からは大量の涙が地面に垂れた。


「あれ? なんで、俺は泣いてんだよ……さよなら……俺の10年間……」


 私は立ち上がり、優斗と手を繋いだ。


 何故かとても気持ちがいい。


 そのまま、私と優斗は玲さんの前を横切る。


 『じゃぁね、哀れなヒロイン……』


 そんなこと思っちゃダメなのに……。

 どうしちゃったんだろう……私……。


「雨強いし、雨宿りで俺の家くるか?」

「うん!」

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