第九話

 夜空とのデートの日、俺は駅前に5分ほど早く来た。

 駅は以前に玲と買い物する時に待ち合わせした場所だ。


 俺は近くにあるベンチに座り祈る。


 どうか、夜空といい感じの関係になれます様に!

 ここで失敗したら後が無い。って、俺ってよくよく考えるとデート始めてみたいなもんじゃねーか。

 今までの玲とのデートは保育園から同じだっただけあり、デートと言うより兄妹きょうだいで遊びに行く感覚だった。

 そう思うと、ドキドキしてきたぞ……。


 10時ピッタしに夜空は来た。


「お待たせ! 待ったぁ?」

「いや、待ってないよ。ピッタしに来るとは思わなくて少し驚いたけど……」


 夜空の格好は、清楚な黒色をベースとした可愛らしいワンピースだった。

 なんだろうか……すごく緊張してきた。

 こうやって見るとほんと、夜空は可愛いな。

 少し、罪悪感が生まれて来た……。


「じゃぁ、行くか!」

「うん!」


 静浜水族館は電車に乗って二駅越した駅のすぐにあるため、俺たちは駅に行き電車に乗りカタンコトンと、揺られること10分。

 静浜駅に着き、俺たちは降りた。


「えーと、静浜水族館は……」と俺はスマホ片手に地図で調べているとーー。


「あ、私知ってるよ」

「そうなんだ……」

「うん、昨日楽しみで調べてたの!」

「頼もしい」


 そんな、彼女の楽しみを壊す事になるかもしれない。

 そう思うと彼女を復讐道具に使うことに抵抗を持ち始めてしまった。


 俺は夜空のガイドのもと静浜水族館に着いた。

 チケットを買い中に入ったところでひとつわかったことがある。


 静浜水族館の中にはレストランがあったりちょっとしたアトラクションがあったりと、かなり広いということだ。

 そして、かなり恋人同士で来ている人が多いということだ。


 そのせいか、心臓の鼓動は速くなるばかりだ。


「じゃぁ、行こっか!」と夜空は両手を合わせて可愛らしい仕草をしたため、ドキっとしてしまった。


「ペンギンとの触れ合いまでまだ時間あるし、とりあえず水族館をぐるっと一周回るか」

「そうだね!」


 俺たちは水族館をぐるっと回った。


 可愛らしい熱帯魚のいる小さな水槽からはじまり、深海魚のいる大きな水槽。そして、最後に自分の真上が透明なガラスになってジンベエザメなど巨大な魚がいるトンネルの様な通路を歩いた。


 その後は、ペンギンとの触れ合いの時間になり俺たちはペンギンコーナーへ向かった。



「ペンギンに餌やりだと……」

「やるしかない!」


 餌は魚が3匹入って300円で売っていたため、割り勘をしてひとつ買うことにした。


 俺と夜空は1匹ずつ魚を取り、ペンギンに向けると。


 パクっと可愛らしくひと口で丸呑みをした。


 ((か、かわいい))


 俺と夜空は同時にもう1匹取ろうとすると当然、手が当たってしまった。


「「あっ!」」


 俺と夜空は同時に手を離す。


 やば……なんなんだ、このドキドキは……。


「どうぞ……」と俺は小さな声で言う。

「いやいや、どうぞ……」と夜空も小さな声で言う。


 俺も人のことを言えないが夜空の顔が赤くなっている。


 恥ずかしいよな……それは……。

 実際、俺も恥ずかしい。


「それじゃさ、一緒にやろ」

「う、うん……」


 俺と夜空はひとつの魚を2人で持ちペンギンにあげた。


 あ、また手が当たってる……。


 しかし、恥ずかしいという感情は無く何故かとても気持ちが和らいだ。


 その後は、ペンギンを触り、静浜水族館の中にあるレストランで「ジンベエザ麺」というネーミングセンスを感じるラーメンを食べた。

 ナルトに、ジンベエが印刷された、ただの塩ラーメンなのになぜか、美味しく感じた。


 まだ、時間があるため、もう一度ぐるっと回ることにした。


「ねぇねぇ、あの魚可愛い!」

「あー、ダンゴウオだって」

「可愛い……」


 なんだかとてもいい雰囲気だ、ずっとここに夜空と居たい。

 あー、俺、夜空のこと好きなんだな。

 早く復讐をしたい。

 そのふたつの思いが交互に頭の中を駆け巡る。


 そして、気がつくと俺の体は夜空の近くに行っていた。


 止まれ俺……ここで付き合えても、夜空を不幸にするだけだ……。


 どんどんと俺の体は夜空に近づく。


「可愛いね」と夜空がこっちを振り向く。


 その瞬間、気づけば俺は夜空の唇にキスをしていた。


「俺と……付き合ってください……」


 夜空の顔は真っ赤になりながら、俺の頬をパシンと叩いた。


 周りのカップル達が「喧嘩か?」などと笑っている。


 そのまま、夜空は走ってどっかに行ってしまった。


 俺はその場に膝をつける。


 ぁあ……俺何やってんだよ……。

 バッカじゃねェのか……。


 あんなことしたら、そうなるわな。


 膝をつけて絶望していると、ひとりのお兄さんが「せっかく可愛い子なんだしさ、ここで終わったら終わりだぞ? 早く、謝りに行ってこい!」と声をかけてきた。


 そうだ……復讐もすべて、このままではここで終わってしまう……。


 俺は立ち上がりお兄さんに一礼をして、夜空の元へ向かう。


 きっと、まだ駅にいるはずだ。

 ここ、3週間夜空といて気づいたことがある。

 それは、俺が夜空のことが"好き"ということだ。

 復讐だから、付き合うなんて……俺は元々間違っていた……。


 俺が駅に着くと夜空はベンチに座っていた。


「あのさ……夜空……」

「………」


 夜空は下を向いている。


「俺さ……」

「さっきのはダメだよ……」

「お、おう」

「私付き合ってるわけでも無いんだしさ……しかも、優斗は玲さんと付き合ってるじゃん……」


 夜空の目からは涙が垂れる。


「でも……さっき、キスされて『付き合ってください』って言われた時、すごく嬉しかった……」


 やめてくれ……。


「私っておかしいよね……」


 それ以上はやめてくれ……お前が好きなってしまう……。

 俺が夜空と付き合えば、確実に夜空に不幸な目を合わせる。


「でも…………」

「俺さ……ひとつお前に隠してた事があるんだ……俺さ、実はさ……夜空と仲良くなったのは復讐のためなんだ……、俺にはさ幼馴染の玲と親友の翔吾がいるだろ? ……俺さ、ある時見ちゃったんだよ……玲と翔吾がヤってるところ……それ見た時にさ、俺は必ず復讐してやるって思ってよ……その結果、お前と仲良くなって付き合って復讐してやるって思ったんだよ……俺って最低なやつだよな……結局、あいつらとやってること同じじゃんか……」


 夜空はコクンと首を縦に振る。


「でもさ、気がつくと俺は夜空のことが好きになっててさ……」


 言ってしまった……。

 今日一日でわかった。

 俺は夜空のことを復讐の道具としてでは無く、ひとりの女子として好きになっていたことを。

 言うんだ俺!


「だから、俺と付き合ってください……」


 夜空の目からは大粒の涙が数滴垂れる。


「ずるいよ……そんな、ダサい告白……復讐の道具かぁ……変だなぁ……ずっと、友達として見てた人に復讐の道具として見られてたのに……"はい"……」と夜空は笑顔で返事をした。


 俺は涙を垂らしながら夜空に抱きつく。


 もちろん、周りの人が見てる中だ。

 しかし、恥ずかしいとは感じなかった。


 その後は俺はもう一度、寝取られた話をした。


 すると、何故か今までには感じなかった安心感が感じた。

 そうか……俺はずっと、ひとりで抱えて誰にも相談してなかったからか……。


「それで、復讐は?」

「もう、いいや……だって、俺は夜空を復讐の道具として使うんだぞ?」

「うんうん、いいよ……」

「いや、でも……」

「だって、彼氏が困ってるんだもん……体でもなんでも使っていいよ……」

「………」


 言葉が出ない。

 ほんとに、なんで俺はこんないい子を使って復讐しようとしてたんだよ……。


「でもさ……優斗は2人みたいにならないってことを約束できる?」

「約束どころか、当然のことだろ……」


 俺と夜空はハハハッと笑った。


「じゃぁ、とりあえず、玲に話をつけようか……」

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