第六話
土曜日の朝。
昨日は何故か楽しみで胸の鼓動が速くなり寝付けず、一睡もしないで朝を迎えた。
今日は、玲とのデート当日だ。
デートと言っていいのかわからないが、一緒にクッキーの材料の買い物をして玲の家でクッキーを作るのだとか。
初めは「私の家でクッキーを作ろ」と言われた時は、正直怖かった。
もう2度とあの空間には立ち入りたくはなかった。
でも、復讐のためだ。
"俺よ、頑張れよ"と心の中で言って買い物の支度をした。
○
待ち合わせの大きな時計のある広場にいると。
「優斗〜」と玲は手を振りながらこっちに来た。
清楚な白色のワンピースを着ていて、前までの俺ならこう言っただろう「可愛い」と。
しかし、今の俺には可愛いともなんとも思わなかった。
「お待たせー」
「ああ。ぜんぜんいいさ、それで。どこでクッキーの材料を買うんだ?」
「うーんとね……近くのスーパーかな」
「そうだな」
俺たちはここから徒歩5分にあるスーパーに行くことにした。
スーパーに着くまではいつもの登下校のように、心を殺して話した。
スーパーには業務スーパーのように様々な食材やら日常品があった。
今思うとこのスーパーに来るのも、小学生以来だな。
玲はクッキーの材料をカゴの中に入れている。
そこで、俺はひとつ疑問に感じた。
何故、"クッキーを作るのか?"と。
「なぁ、玲」
「う〜ん? どうしたの〜?」
「なんで、クッキーなんて作ろうと思ったんだ?」
「忘れたの……」と玲は小さな声で呟いた。
忘れた……?
何を俺は忘れたと言うんだ?
「はい……?」
玲は俺のところに近づいてきて「だ・か・ら!! 小さい頃約束したじゃん! 『付き合ってから10周年目はクッキー作ってお祝いする』って!」
そういえばそうだった。
忘れたといっても約3週間前までは、その日を楽しみにずっとしていた。
あの出来事が起こるまでは。
「ははは、そうだったな?」
「ひどい! 忘れてたなんてぇ〜!」
「ははは、ごめんよ」
俺は作り笑いをしながらそう言う。
前までは可愛いとも思っていたその姿は、ただただ、殴りたい・殺したいそう思う以外には無くなっていた。
スーパーで買い物を終えて玲の家に着いた。
玲が鍵を開けドアを開き、玲は中に入っていく。
俺はそれに続いて中に入ろうとしたら……何故か、足が動かなかった。
足はガタガタと震えている。
「ん? どうしたの〜? 中に入らないの?」
頑張れ、俺!
怖がるな、俺!
「入る入る」
俺は恐れながらも、頑張って玲の家の中に入った。
「ただいま〜」
「お邪魔しまーす」
玄関には靴が無いことから、どうやら両親はいないらしい。
「台所に荷物置いておけばいいな?」
「うん!」
俺はリビングに行き、台所に荷物を置いた。
「優斗! ちょっと、私の部屋来てくれる?」と玲は2階から言う声が聞こえたため、2階に行く。
しかし、玲の部屋のドアの前に立った瞬間。
あの日の出来事が脳内を駆け巡った。
はぁはぁ……怖がるな、恐るな……俺……。
しかし、体は先ほどのようには動かなかった。
額からは汗が流れる。
復讐のためだ。
頑張るんだ、俺……。
大きく深呼吸をした後に俺はドアを開けた。
「ん? どうしたんだ?」
心臓の鼓動はドクンドクンと速くなる。
こいつらは……ここでヤったんだよな……。
そう思うと今にもこいつを殺したいと思ってしまうため、俺は手で拳を作り強く握り、頑張って顔には出ないようにする。
「この、エプロンどう? 似合う? ……」
玲は熊のついた可愛いらしい、エプロンをしていた。
「ああ、とても似合ってるよ」
「ほんと!? やったー!!」
どんどんと、息が荒くなっていく。
早く、この空間から抜け出したい。
「じゃぁ、クッキー作るか……」
「うん!」
そして、ドアの方に張り返るときに、俺はベッドを見るとひとつゴムの袋が破られて置いてあった。
つい最近もこいつら、したんだな……。
その後は、台所に行きクッキーを作った。
玲は昔から器用だったため、焦げ目などが何もない市販にありそうなほど綺麗なクッキーを作ることができた。
「じゃぁ、一緒に描こ!」とチョコの入ったペンを2人で握り『10周年おめでとー!』と、大きなクッキーに描いた。
ぁあー、早くおわりますように俺たちの関係は。
こうして、地獄の時間は過ぎていったーー。
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