第五話

『どこの水族館にペンギンを見に行くんですか?』

『私はよく、森水族館に行きます』


 お、同じだ……。

 俺もよくペンギンを見に森水族館に行っている。

 これは、一緒に行くチャンスだ。


『奇遇です! 僕もよくそこの水族館行くんです! ぜひ、今度一緒に』


 俺はそう打つが、『ぜひ、今度一緒に』の部分を消した。


 夜空さんも俺には彼女がいること知っている。

 そのため、もっと良い理由がなければ遠慮してくるだろう。


『奇遇です! 僕もよくそこの水族館行くんです!』

『え!? ほんと!? あそこの水族館いいよね〜』

『ペンギンがたくさんいて癒されます』


 玲はそこまでペンギンに興味がなく、ペンギンで盛り上がったのは初めてだ。

 何故かどんどんと夜空さんのことを考えると、胸が痛くなっていった。


 次の日、学校で。


「ですよね、やっぱりペンギンってあのペタペタ歩く足がほんと、癒されます!」

「ほんと、それ! ぁあ〜、想像しただけで〜」


 夜空さんは両手をほっぺに当てながら、幸せそうな顔をする。


 可愛いなぁ……。

 こんな可愛い人を使って復讐するのは、少し胸が痛い。

 そうか……昨日の胸の痛みはこれが理由だったのか。


 それから、家でも学校でもペンギンの話題で盛り上がった。

 気づけば、お互い呼び捨てで呼ぶようになり仲もどんどんと良くなっていく。

 しゃべっていて気づいたことがある。

 それは、彼女はとても優しく将来この人と結婚すれば俺みたいな目に合わない気がする。


 そして、そんなある日のことであるーー。


 俺はいつものように学校で。


「ペンギンってさ、なんであんなに心を落ち着かせてくれるんだろぉ〜」


 などと、夜空とペンギンの話をしていると。


「優斗」と玲が前のように話に割り込んできた。


 いつも邪魔ばかりするな……。


「ん? どうしたんだ?」


 玲は顔をプーと膨らませている。


 どうやら、嫉妬のようだ。

 自分の彼氏が異性と毎日楽しそうに喋っているのを見れば、そうなるだろうな。

 でもな、俺はお前にこれ以上のことをされた。

 昔の俺ならその顔を可愛いと思ったけどよ……今の俺にはわかるんだよ。

 お前のその顔は偽物に過ぎないことぐらい。

 早く見せてあげたいよ。

 これから、俺がお前にする復讐を。

 こんなことで頬を膨らませるようじゃぁ、これ以上のことをしたらお前はどうなるんだろうな?


 そんなことを思うと、ワクワクが止まらない。


「私といるよりも、楽しそうな顔して……最近、優斗変態!!」


 あー、俺は変だよ……お前らのせいでな……。

 だんだんと自分が壊れていっていることは、百も承知だ。

 でも、完全に壊れるわけにはいかない。

 お前らを地獄に落とすまではな!


「ごめんなさい」と夜空が何故か謝る。

「いや、夜空は悪くないって悪いのは……(こいつ)俺だって……」


 夜空の顔はほんとに、申し訳なさそうな顔をしていた。


 夜空は悪くはない。

 悪いのはこいつらだ。


「優斗、許して欲しいなら今度デートしよ」


 俺はその言葉を聞いた瞬間に吐き気がした。

 頑張って顔には出さなかった。


「ぁあ、わかったよ」


 嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ。

 こいつどデートをすると考えるだけでも、吐き気がする。

 登下校だけでも辛いのに、デートとなると耐えられる自信がない。


 でも……復讐のためだ。

 頑張るしかない。


「ほんと!?」

「今週の土曜日でいいか?」

「やったー!」


 "仕方のないことだ"

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