第一話

「はぁはぁ……」

「疲れたぁ……」


 玲はテーブルに置いてあった優斗の財布が視界に入る。


「まだ持ってたんだ……」

「ん? どうしたんだ?」

「うんうん、別にぃ」


 あの財布は小学4年生の頃の誕生日プレゼントにあげたものだ。

 白をベースとした長財布。

 少し、見栄張って高めのやつ買ったかなぁ……。


「ん? 嘘だなぁ〜」

「まってっ! …………………」


 明日返すとしよう。

 今はこの気持ちのいい時間を過ごすとしよう。



 完全に立ち直るには丸一日かかった。

 なんせ、10年も付き合ってた彼女に裏切られたからだ。

 

「おはよぉ〜」と玲は待ち合わせの俺の家の前に来た。

「ああ、おはようクソビッチ

「優斗、この財布昨日忘れてったよ」

「ああ、ありがとう」


 こんな財布……俺の親友と俺の幼馴染がした部屋と同じ場所にあったこの財布はもう汚い。

 捨てるとしよう。


 玲は手を出してきた。

 俺はその手を掴む。

 いつものことだそうやって要求してきて俺はその手を掴む。

 

 今から復讐する相手が目の前にいるせいか変な気分だ。


「い、いたい……」

「あ、ごめんよ……」


 その想いのせいか俺は玲の手を強く握ってしまっていたらしい。


「う、うん……」


 玲はそう言いながら横髪をかき上げる。

 その姿はほんとに天使のようだった。

 しかし、こんなのは天使なんかじゃない。

 ただの悪魔にすぎない。

 俺の10年間を狂わせた悪魔にすぎない。


「じゃぁ、行こうか」


 学校はここから徒歩10分ほどのところにある。

 その間俺は玲の前では仮面を被らなければならない。


「どうしたの? こっち見て……」と玲は顔を真っ赤にしそっぽを向く。


 どうやら照れているらしい。

 今思うと10年間付き合っているのにこんなことで照れるなんて……。


「いや、なんでもないさ。そんなことより、最近翔吾としゃべったか?」


 玲は一度口を開けた後に。


「なんでそんなこと聞くの?」

「一応、親友として気になってよ。前に『玲さんともっと仲良くなりたい』って言って心配しててさ」


 実際に一年ほど前に言っていた。

 そのせいで俺がこんな目に遭うなんてな。

 ここで翔吾の話題を出せば少しは俺のことを考えてくれるだろう。


「へぇー、まぁ仲良いよ」と玲はボソッと言う。


 学校に着くと俺と玲は同じ教室へ行き席に座る。


 玲とは同じクラスであり、1年のクラス発表で同じクラスになった時は「運命」なんて言ってたけど今では嘘のようだ。


 さぁ……どの人と付き合って復讐するとしようか……。


 そんなことを考えているとーー。


「おっは〜、優斗」と俺の机の前にひとりの男の子が来る。


 翔吾だ。

 俺のもうひとりの復讐するべき男だ。


「おはよ! 翔吾! 今日もお前イケメンだなぁ」


 俺は翔吾の背中をポンと叩く。


 いつもやってることだ。

 いつもやっていることをいつもとは違う感覚でやるというものはとても気持ち悪い。

 でも、俺は仮面をかぶり続けなければならない。

 復讐するために。


「へへ、そんなことないよ」

「そうかぁ〜? このイケメン〜」と俺は翔吾の頭をぐりぐりとする。


「いててて」

「この、イケメン〜」


 そこに、「また、2人とも〜」と玲が来た。


「おっ! おはよ、玲!」


 玲は少し顔を赤くして「おはよぉ〜、翔吾」と言う。 


 そして、玲は翔吾の耳元で「今日うち来て……我慢できないから」と呟いた後自分の席に去っていく。


「ん? 今なんて言ったんだ? 玲は?」

「ん? なんでもない……」

「嘘つけぇ〜!」

「本当だってば」

「そ、そうかあ?」


 どうせ嘘だ。

 こいつも玲も信用できない。


 翔吾も「じゃぁ」と言い席に着く。


 さぁ……誰と付き合う……。


「おはよう、優斗くん」と隣の席の女子が席に着くと言う。


 彼女の名前は大空 夜空おおぞら よぞら

 学年一と言われる玲と同じぐらい人気がある女子だ。


 この人となら……。

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