君と嘘つき 2
光の墓がある彼女の生まれた街は、僕たちが出会った場所からは遠く離れたところだ。
「声を掛けてくれて嬉しいよ」
柔らかな顔で僕を見つめるマスターは、花束を抱えて目だけで笑む。
墓前に手向けるつもりの、その真っ白な百合の花束の強い芳香に、マスターの優しい顔に、僕は酔いそうになるのだった。
一年振りに訪れたこの街は、光の故郷とはいえ付き合っている頃には訪れたこともなく、光との思い出の場所は身近なところにあるものだから普段は僕の記憶からすっぽりと抜け落ちてしまっている。
駅の改札口を出て北口にあるバスターミナルで僕がバスの来るまで路線図を見ている間に、近くにあった花屋で百合の花束を手に入れたマスターが「ここが光ちゃんの故郷なんだね」と感慨深い様子で呟いたのが聞こえた。僕もこの地に足を運ぶ度、同じような気持ちになる。ここで光が生まれて高校生になるまで過ごした故郷なのだ、と。
「昔、梅祭りに来たことがあるよ」
マスターはそう言って僕を見て微笑む「良い所だよね」
バス座席の、いちばん後ろに並んで座る僕たちは、おそらく他の人から見れば仲良く墓参りに行く、祖父と孫に映るのだろう。
後から乗車して来た高齢のご婦人が、ふっと優しい眼差しでマスターの抱える百合の花束を見た。
その柔らかな表情に僕は、光の横顔を思い出す。
光はいつも柔らかな表情で何処かを見ているような節があった。何を考えているの、と聞くと決まって、何も考えてないよと笑う光の素の表情がそのような優しげなものであると知ったのは、いつだっただろう。
その顔があまりにも眩しくて、直視できない僕はそれをそっと覗き見る穏やかな時間が、好きだった。
「光ちゃんは、百合ってイメージじゃないよね。なんだろう?」
さあ、何でしょうね。
僕は寝たふりで答えをはぐらかす。
光は、雲に滲む月のよう。
それに似合う花は……。
墓地はバスの停留所の目と鼻の先にある。整然と区画整理された真新しい墓地は、街のようにも迷路のようにも見えた。
「いやあ、ずいぶんと広いんだな。場所は……覚えているようだね」
線香の香りに燻されるように、白く
その時、遠くからでもよく分かる背のすらりと高い男が、一つの墓の前で佇んでいるのが見えた。
見間違えようの筈もない、その姿。
……稜。
まるで僕の声が聞こえたかのように、身体ごとこちらに向き直った彼の姿に、ようやく気がついたマスターが驚いて足を止める。
「ああ、稜くん……。あれは、もしかして稜くんだよね?」
僕は唖然とした様子で、まだ遠く離れている稜を見ているマスターの背中に、そっと手を置いた。
「……そうです。稜、ですよ。まさかこうして
睨みつけるように見る僕に向かって、稜は朗らかとも言える笑顔を返しながら片手を上げた――。
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