39 彼女のお願い
立花の笑みに、クラスの皆が釘付けとなる。
普通なら自分が話しかけたのに、別の方を向いて返事を返される事に疑問を持つ筈だ。
だけど立花の笑顔が相当な破壊力を持っていたらしく、お調子者の…誰だっけ。あ、山田か。山田はただ口を開けてぼーっと立花を見つめていた。
彼女は注目を集めている事をなんとも思っていないように、淡々と喋りだした。
「突然訪れてすみません。この後二組の体育祭実行委員さんの元にも用事があるので、手短に。本日はお願いがあって来ました。佐藤さん」
「はっはい?!」
突然名前を呼ばれた佐藤という苗字の女子は、驚きながらも返事をする。
この子は普段あまり喋らなくて、休み時間は本ばかり読んでいる少し俺と似た同級生だ。
長い前髪で、あまり目元が見えないが顔は整っていて、磨けば光る原石だと思う。
そんな彼女の元に立花は歩み寄って、佐藤の耳元に口を近づけてひそひそと何か話す。
途中佐藤は驚いた表情で俺を見てきた。
一体何を話したんだろうか。
いや何となくは分かるんだけどさ。
この学校の体育祭実行委員というのは、体育祭にて様々な仕事を任される。
その仕事の中に、種目に出る人の割り振りがある。
立花は俺と一緒に出るために、一緒にしてくれないかとお願いしたのではないだろうか。
そして立花が全て話終えたらしく「いいでしょうか?」と聞くと佐藤はこくこくと頷いていた。
立花は頷く佐藤を見ると、にこりと笑って教室の扉まで歩いていった。
そして振り返り、クラスの皆を見回した。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。それでは失礼します」
教室を出る際、一瞬俺の方を向いてウィンクした。
…なんというか。大胆な立花も悪くないな。
立花が教室を去った後、案の定佐藤は皆の質問攻めにあっていた。
「何を話していたの?」
「友達なの?良かったら紹介して」
「どんな匂いがした?」
佐藤は苦笑いしながら律儀に質問に答える。
「体育祭についてちょっとね…友達では…無いかな。とってもいい匂いがしたよ」
おい山田なんだ最後の質問は。
その後も質問を受けていたが、話していた内容については全て濁して答えていた。
担任の先生が入って来るまで、教室は立花と体育祭に話で騒々しかった。
☆☆☆☆☆
「よし、今からプリント配るから、プリントに出たい種目順に番号を書けー」
クラスの男子が騒ぎながらプリントに番号を書いている。山田め。
俺は仮装二人三脚を一番、借り物競争に二番を書いて後は適当にしておいた。
全員が書き終わると、先生が回収していった。
「なるべく出たいものに出れるようにして貰うよう、体育祭実行委員には言っておくが、絶対とは限らないからな。そこは気をつけて置いてくれ」
その後は体育祭に使う椅子などを運ぶ時間にとなって、二時間目からは通常授業なので皆だるそうだ。
俺にとっては興味がある授業だったので、あっという間に放課後となった。
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