40 彼女についての質問
放課後になって、すぐにバイトに行こうと思ったら、後ろから誰かに呼び止められる。
振り返ってみると、そこに居たのは佐藤だった。
「結城くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…良い?」
聞きたいことか…。
まあバイトまで時間はあるし、遅れることはないだろう。
「ん、全然大丈夫」
「ありがとう。ここでは話せる内容では無いと思うから、別の部屋に行きましょ」
佐藤が教室を出て行って、それに俺は続いていく。
同じ階にある予備室に彼女は入っていった。
予備室は小さくて、机と椅子と黒板、そして大きな窓があるだけだった。
彼女は窓側に立っていて、まだちょっと高い位置にある夕日が彼女と重なって眩しい。
俺が扉を閉めると、彼女はふぅと息を吐いた。
そしてゆっくりと喋り出す。
「単刀直入に聞くね。結城くんは立花さんと付き合ってるの?」
聞きたいことの内容は、だいたい予想出来ていた。
だからラブコメ主人公みたいに「え、ええっそ、そんな訳ないだろ!」と驚きはしない。
どういう関係だとか、付き合ってるとか、好きなの、とか。
予想はしていたけど、何て返せばいいかな。
まあ、嘘をつく意味も無いし、素直に言おうか。
「…いや。付き合ってはいない。なんでそんなことを?」
俺が逆に質問をしたら、彼女は苦笑いをして答えてくれた。
「それがね、立花さんは私の耳元で『佐藤さん、体育祭実行委員の貴方にお願いがあります。私と、そこの結城さんで、借り物競争と仮装二人三脚に出たいと思っています。結城さんは私の大切な人で、どうしても一緒に出たいんです。お願いできませんか?』って言ったんだよ」
ふむふむ、やはり俺の予想は間違っていなかったみたいだ。
…ん?
「結城さんは私の大切な人」だ…だと。
意味を理解して急激に顔が熱を持ち始めた。
今の俺は、耳まで真っ赤になっているんじゃないかな。
心拍数も上がって、掌に汗がじんわりとにじみ出てくる。
それをズボンに拭って、平静を装って佐藤の続きの言葉を待つ。
「立花さんの言った『大切な人』ってどういう意味なのかなって気になってて…。ごめんなさい、変なことを聞いて」
彼女がぺこりと頭を下げる。
「いや、全然大丈夫。気にしてない。他になにか聞きたいことある?」
彼女は頭をあげて、「じゃあ…」と言った。
「最後にこれだけ聞かせて貰っていいかな?結城くんは…立花さんのことが好き?」
彼女の質問に、俺は一瞬頭が真っ白になる。
俺は…。
立花が好きだ。
最初は友達としてだと思っていたけど、それは間違いだった。
俺は、異性として立花が好きだ。
立花のことを考えるだけで、心が暖かくなる。
髪や手に触れるだけで、暗い心だって明るくなる。
一緒に他愛もない会話を楽しんで、一緒にご飯を食べて。
一緒に勉強して、一緒に遊んで。
もっと立花と一緒にいたい。もっと立花のことを知りたい。
けど、俺にはまだ自信が無いから。
ちゃんと彼女と向き合えるようになったら、好きだと伝える。
一度封印したつもりだったこの気持ちだったけど、改めて意識したせいで少し封印が解けてしまった。
心臓のドキドキが止まらない。
いかん、封印だ封印。
「結城くん…?ずっと黙ってるけどどうしたの?」
おっと。随分の間俺は黙っていたらしい。
ちゃんと答えなきゃな。
「…俺は、立花のことが好きだよ」
「…!そうなんだ。…答えてくれてありがとう」
「どういたしまして。じゃあそろそろバイトがあるから行っていい?」
気まずい雰囲気になって、黙り込んでしまう予感がしたので、先にそのフラグを折って逃げ道を作っておく。
「うん。時間をとらせてごめんね。頑張って」
「ありがとう。それじゃまた」
俺は少し急ぎ気味に予備室を出た。
部屋に一人、佐藤が残される。
彼女は誰もいない扉に向かって、ぼそりと言った。
「…やっぱり。両想いなんじゃん」
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