35 彼女の温もり

立花と遊びに行ってから少し月日が流れ、六月の頭ごろ。


俺は相変わらず、勉強やバイトに励んでいた。


立花との関係もとても良好である。


俺は部活に入っていないため、今日も今日とてすぐに家に帰ろうとする。


まさに教室を出ようとした時、後ろの方から声が聞こえた。


「あ、ごめんな皆。ちょっと帰るの待って。もう数週間で体育祭でしょ。明日皆の出る種目とか決めるから、考えといて。今日の宿題ね」


担任の先生が、種目が書かれたプリントを配っていく。


「よし、全員に行き届いたな。じゃあ解散していいよ!」


解散して良いと言われたものの、周りの人達は体育祭の話で盛り上がっていて解散する雰囲気は無かった。




体育祭か…。



「はあ…」


俺は溜め息をついて、その場を離れた。




☆☆☆☆☆



今日はバイトがないため、家で勉強をしていると立花がやって来た。


「立花、いらっしゃい」


「はい、お邪魔します」


彼女は荷物を置いて、俺の隣に座る。


ふわりと彼女の良い匂いがする。


最近立花の匂いを嗅ぐとドキドキするんだよなあ...でも安心もするというか...。


彼女の方を見てみると、頬が少し赤くなっていた。


視線を頬から少し上にあげて見ると、すぐに目があった。


どうやら立花も俺の事を見ていたらしい。


彼女の目をじっくり観察してみる。


乾燥を知らない潤いのある瞳に、長いまつ毛、綺麗な二重。



完璧だった。


というか彼女は全部完璧だった。


どれくらい時間がたっただろうか。


思わず見惚れて結構な時間見つめ合っていた気がする。



「…あの。これ以上見つめられると、はっ恥ずかしいというかっ…」


「あっご、ごめん。立花の目がとっても綺麗で…」


俺の言葉を聞くと、彼女はぷしゅううと音がするかのように顔赤くした。


視線を下にして、顔の赤さはそのままで俺の袖をくいくい引っ張る。


最近わかった事だが、彼女は触れ合う事が好きな様だ。


最近はよく手を握りあったり、頭を撫であっている。


ハグをするのは度が超えているような気がするのでちゃんと線引きしている。


まあ今の立花は触れて欲しそうにしているので、優しく頭を撫でておく。


彼女の絹糸の様な美しい髪を、優しく撫でる。


とてもさわり心地が良く、キューティクルバッチリの髪は一生触れる気がする。


「わ、私も撫でますね」


「お、おう。ばっちこいっ」


立花がおずおずと手を伸ばす。


そして子供を慈しむかのように、とても優しく撫でてくる。


気持ちいいのだけど、なんだか照れくさい。


恥ずかしさを誤魔化す様に、こんな事を聞いてみた。


「…男の髪なんて撫でて楽しい?」


俺がそう言うと、彼女はくすっと笑いすぐに答えてくれた。


「楽しいですよ。結城さんの髪はとても綺麗ですし、さわり心地も抜群です。ゆ…結城さんだから楽しいんですからね」


破壊力が強すぎた。


心臓の鼓動が速くなって、顔にどんどん熱が集まっていくのが分かる。


お、俺だから楽しいって…。


ぐふっ…。


「お、俺も、君の髪だから楽しくて幸せだ」


「!はっ…はい…」


今度は彼女が赤面する番だった。


俺たちはしばらく髪を撫であったり、手を触ったりしていた。


互いの温もりを確かめ合うように。

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