34 彼女と小さな財布

家に帰った俺らは二人ソファーに腰かけ、例のマグカップで早速お茶を楽しんでいた。


心なしか立花との距離が以前より少し近い。


彼女からとても良い匂いがして、心臓のドキドキが止まらなかった。


「お茶、美味しいですね」


「そ、そうだな。何故かいつもより美味しく感じるよ」


「奇遇ですね。私もそう感じます」


立花が可愛らしい笑みを見せてくるので、俺も自然と笑顔になる。


そして俺はついつい、気になっていた事を聞いてしまう。


「なあ立花、なんで途中財布なんて買っていたんだ?」


「お、聞いちゃいますか」


「誰かへのプレゼント?」


俺の言葉を聞いて、立花はクスッと笑った。


なんなんだ今の笑みは。俺変なこと言った?


「ち、違うの?」


「プレゼント、ですか。まあ強ち間違ってはいない気もしますね」


「なんだよー、気になるじゃないか。早く教えてくれ」


「ふふっ、そうですね。今日は…結城さんが昼食代出してくれましたよね?」


俺が出すと言って頑なに譲らなかったやつだな。今思えば迷惑だったのかも知れない…。


「ま、まあそうだね。それがどうかした?」


「その件で折り入ってお話があります」


「はっはい」


「そんなに硬くならなくて大丈夫ですよ。お話というのは、このお財布に二人で同じ額のお金を入れて、お会計の時このお財布から出しませんか、というものです」


なるほど、賢い。どっちが出す出さないの問題もこれで解決だし、奢られるっていう申し訳なさも無くなるしな。


「その案、凄く良い。今度からそうしよう!」


「はいっ分かってもらえて嬉しいです。今日も奢って頂けたのは嬉しかったですけど、申し訳なくて…。こ、これから一緒に遊びに行く事も、いっぱいあ、あると思いますからっ。こういうのがとても平和的だと思って…」


「色々と考えてくれてありがとうな。今日はごめんな、意地になって俺が出しちゃって」


「そんな、謝らないでください。奢ってくれようとする気持ちは、とても嬉しいですから」


「うん…。まあ次からはそれにしような。また遊びに行くのが楽しみだよ」


「はいっ!私も楽しみですっ」



その後、俺と立花は少しゆっくりして、俺はいつも通り立花を家まで送ることにした。




「今日も送って頂いて有難うございました」


ペコリ、と彼女が頭を下げる。


「ああ。今日は本当に楽しかったよ。おやすみ」


「はいっ!私もとっても楽しかったです!おやすみなさいっ」


手を振って元の道を戻る。


俺が見えなくなるまで、立花は俺を見届けてくれていた。


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