33 彼女と帰り道

ガタンゴトンと音をたてながら揺れる電車の中で、立花と俺は席に座っていた。


2人用の椅子だったので、立花と俺は肩が触れ合う距離にいる。…というか少し肩が当たっている。


肩を通して、立花の体温を感じる。


とても暖かくて、なんだか安心する。


立花はと言うと、マグカップが入った箱を、大切そうに抱きしめていた。


「な、なあ立花」


「なんでしょう?」


視線を箱から俺に変え、頬を少し染めてにこりと笑った。


「なんで途中で小さな財布を買ったんだ?」


立花はもう財布は持っていた筈だし、俺だって持っている。


誰かへのプレゼントだったのだろうか?


にしては立花の好きなくまがいっぱい描かれている財布だけどな。


「それは...ですね」


彼女は少し困ったような顔をした。


もしかして良くないこと聞いちゃってるのかもしれない。


無理に言わせるのは良くないし、やめとこう。


「ご、ごめん。言いづらいなら無理には聞かないよ」


俺がそう言うと、立花は慌てて訂正してきた。


「い、いえっ言いづらいとかそういうのじゃなくてですね…。お家に帰るまで秘密ですっ」


「う、うん。わかった」


家に帰ったら話してくれるらしい。


気になるが、そのまま立花と他愛もない会話をしながら、電車を降りた。





☆☆☆☆☆





家に帰る道中、突然会話が終わり、少し静かになった。


気まずいという訳ではないが、さっきまで話していたのに急にどうしたのだろう。


立花の方を見ると、彼女は頬を赤らめ、ゆっくり口を開きぼそりと言った。



「…夜は冷えますね。手が凍りそうです」


「六月だけどな」


立花が頬を赤らめてそんな事を言うので、ついつっこんでしまった。


「私は冷え性なので…」


「そうなのか。知らなかった」


立花は少し期待する目で俺を見てきた。


そんな目をされたらしょうがないな。仕方なく手を繋ぐとしよう。



嘘です俺もめっちゃ手を繋ぎたいです。すみませんでした。



「じゃあ温めないといけないな」


立花の右手を、俺の左手でそっと握る。


冷え性とか言ってたのに、全然冷たくないじゃないか。




「…結城さんの手は、いつも温かいですね」


「俺のお父さんが、とっても手が温かくてさ。多分似たんだよ」


小さい頃は良くお父さんの手を握っていたからな…。


お父さんの手の温もり、よく覚えてる。




「そうなんですね。…私、結城さんの手…好きですよ」


「あ、ありがとう。俺も立花の手、とても綺麗だと思うよ」


「ふふっ。有難うございます」


心臓がドクドクとして、体の血流が良くなり、顔がどんどん赤くなるのが分かる。


た、立花は…。


あれ?あんまり顔は赤くなってない。


ドキドキしてるのは俺だけなのか…?って。


よく見たら耳が赤くなってる。


「可愛いな」


「…!なにがですかっ」


「いや、なんでもない」


「気になります…」


立花はムッとした顔をして、俺の顔を見てきた。


俺は何でもないふりをしながら、立花と手を繋いだまま、家に帰るのだった。


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