32 彼女とゲームセンター
ゲームセンターにつくと、そこはとても賑やかだった。
笑い声や、嬉しそうな悲鳴や、ゲームから流れて来る音楽など、様々な音でいっぱいだった。
ふと隣を見ると、立花は目をキラキラさせて色んなものを見ていた。
頬も赤く染めて、とても興奮していることが分かる。
「何からしてみたい?」
「どれも面白そうで、何からしようか…」
立花はそう言っているが、彼女の眼はコインの魚釣りゲームに釘付けになっている。
「じゃあ、あの魚を釣るのをしよう」
「はいっ」
おお、魚より早く食いついてきた。
立花の可愛らしい行動に自然と笑みが零れる。
そのゲーム機は、親子などが主にプレイしていて、端の方に二人分席が空いていた。
俺は千円をコイン三百六十枚分に変えて、立花と空いている席に座った。
チャラチャラとゲーム機の中にコインを入れて、手元の釣り竿をブンッと振る。
早速魚が食いついて来たので、リールを回して網まで持っていく。
小さい魚だったので、抵抗も少なく、逃げられずに網まで持って行けた。
結局その魚は、コイン三枚分だったのでプラマイゼロだが、まあ楽しかったので良しである。
立花はというと、普通の竿で大物を釣ろうとしている。
だがその大物は、すぐに糸を切って逃げるため、もっとコインを入れて高級な竿で挑まなければならない。
それでも立花は粘るのだが…。
プチッという音と共に、九回目の立花の挑戦が終わる。
「な、なあ立花。もっと高級な竿でやったほうがいいんじゃ…」
「駄目なんですっ。確かに釣れにくいかもしれませんが、可能性はゼロではないんです。ま、まあ二十回やっても無理ならさすがに諦めますが…」
何が立花にそうさせるのだろうか。
まあ彼女が楽しそうだしそれでいいか。
あれから十分ほど経ち、俺はちょくちょく中くらいのを釣っていたため二十枚くらい儲けていた。
立花はというと、まだ大物は連れていない。
彼女は意味があるのかは分からないが、十何回を超えたあたりから丁寧に釣りを始めた。
そして今、竿を振って立花のニ十回目の挑戦が始まった。
画面には、金色に輝く大きな魚が悠々と泳いでおり、立花の浮きの近くまでやって来た。
そのままその魚は立花の浮きに食いつき、彼女は必死にぐるぐるリールを回している。
だがその金色の魚はとても強く抵抗し、網に近づかない。
「神様…どうかお願いしますっ」
神は本当に彼女の言葉を聞き入れたのか。
彼女がそう言った瞬間、その魚はどんどん網まで寄せられていき…。
網の中へ吸い込まれていった。
「や、やりました!」
壮大な音楽と共に、三百枚ゲットの文字がでかでかと表示される。
す、凄すぎる。本当にやり遂げちゃったよこの子…。
「結城さん、私大物を釣り上げましたよ!」
立花が本当に嬉しそうで、俺も笑顔になる。
「本当に凄いよ、おめでとう立花」
彼女は俺に褒められると、とても嬉しそうに笑った。
そしてここで俺は、ずっと気になっていた事を聞いた。
「なあ、立花。何でそんな少量のコインで、大物を釣りたかったんだ?」
ずっと気になっていたのだ。今回釣れたのだって、奇跡に等しいだろうし、何よりここまでする必要が無いようにも思える。
立花はというと、何故か恥ずかしそうに俯いていた。
「え?ど、どうした?」
「変に…思いませんか?」
「思いません」
立花が不安そうに聞いてきたが、食い気味に即答する。
俺が立花の変に思う事なんてあるわけないだろう。
立花が俺の反応に少々驚きながらも、渋々と言った形で口を開いた。
「コインを買ったときに、隣にコインを預ける機械がありましたよね?」
「あったな」
「それで思ったんです。い…いっぱいコインをゲットして、あそこに預ければ…そ、その…結城さんと、また遊ぶ口実が出来るかな…って」
えっと…。
「…可愛すぎて鼻血出るかと思った」
「えっ?えええっ」
立花は顔を上げて俺と目を合わせたかと思うと、ボンッと音が聞こえるかのように顔を真っ赤に染めた。
そういう俺も真っ赤である。
「そ、その立花。俺はそういう口実とか関係なしに立花とだったらいくらでも付き合ってやるし、というか俺がお願いしたいくらいだし、でも確かにコインを預けておいたらまた一緒に来れる口実になるのも分かるから立花の考えも悪くないと思うしまあ立花とだったらなんでも楽しいからそこまで気を遣わなくてもいいんっていうかなんて言うか」
赤面しているのを誤魔化す様に、慌てて俺はまくし立てる。
立花はというと、だんだんと顔の色が元に戻っていったが、頬のりんごだけは消えることが無く、俺の言葉を聞いているうちに笑顔になった。
そして少しもじもじしながら…。
「…ありがとうございます。嬉しいです」
と言うものだから、愛らしすぎて心臓が爆発するかと思いました。
そして俺たちは魚釣りのゲームを止めて、別の台でも遊ぶことにした。
金魚を掬う台や、ビンゴをする台をした所、結局手持ちは六百枚になった。
俺たちはコインをすべて預けて、また一緒にしに来ようと約束した。
そのまま少し移動して、クレーンゲームが沢山ある所にやって来た。
有名な可愛らしいキャラクターのぬいぐるみや、アニメや漫画のフィギュアなど、色んなものが景品として出ている。
「おっ、これなんか良いんじゃないか?」
俺が指さしたのは、立花が好きなクマのマグカップである。
しかしただのマグカップが入っているわけではなく、一つの箱の中に茶色と白のクマのマグカップが一個ずつ入っているところである。
たまたま目に入って、立花の好きなクマで可愛らしかったからなだけであって、深い意味は決してない。
断じて。
「…!本当ですね!とっても可愛らしいです!しかも二個入っているので結城さんとお揃いで使えますね!」
はい。ちょっと考えてました。二人で分け合えば、思い出の品にもなるなと思いました。
「よし、じゃあ頑張って取ろうか」
「はいっ!頑張りましょう」
一回ずつ交代でプレイすることに決まり、最初は俺となった。
百円を入れて、慎重にボタンを押す。
マグカップは、正方形の箱に入っており、箱の一片にアームを引っかける用の輪があった。
割れ物ということで、取り出すところには柔らかいクッションが敷いてある。
まあ、そう簡単に取れるもんじゃないだろうし、千円以内で取れたらいいんだけどなあ。
「あっ」
そんな考え事をしていたら、アームが開いたとしても、どう考えても輪に入らないだろうっていう所まで移動させていた。
やってしまった…。
百円を無駄にしてしまった。
ゆっくりとアームが開いて、真下に降りる。
やはり輪には入らず…あれ?
「す、すごいです!結城さん!」
「あ、あれ!?」
なんとアームの先が、正方形の箱の少しだけある隙間に入ったのだ。
そのまんま持ち上がり…。
取り出し口の上まで運ばれて、機械の仕様か、ぐらっと揺れて…マグカップが落ちた。
「一回で取れるなんてすごいです!しかもあんな方法で!よく取れましたねっ」
立花が嬉しそうに取り出し口からマグカップを取る。
「う…うん。取れると思ってなかったから、びっくりしたよ。でも取れてよかった、立花は白い方がいい?」
「は、はい!結城さんは茶色のくまさんで大丈夫ですか?」
「うん。茶色のくまさんが良いなって思ってたんだ」
「お家に帰ったら、早速使いましょうねっ」
立花は頬を赤らめてそんな可愛らしい事を言う。
立花が嬉しそうで、何よりだ。
し、しかしお揃いのマグカップを使うっていうのはちょっと照れくさいな…嬉しいけども。
そんなこんなでもう少し別のクレーンゲームをしたところ、巨大なお菓子の袋が取れた。
巨大なお菓子の袋は、立花が取ったものだ。大変嬉しそうで何より(略。
そのままゆっくりと時間を潰し、もうすぐ暗くなるので、二人でショッピングモールを出た。
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