28 彼女の手
電車に乗り込み、座る所が全て使われているため端の方に立花と行った。
近くで見る立花は、とても綺麗で清楚という感じだった。
何も言わず、立花の事をまじまじと見ていたら、立花が顔を赤くした。
その様子がとても可愛らしくて、俺が顔を綻ばせると、立花が少し不満そうな顔をした。
「何かおかしいですか」
立花は拗ねてしまったように、少し口先を尖らせながらそう言った。
その動きもとても可愛らしいのだけど、これ以上笑うと少しの間本当に拗ねてしまうので我慢する。
以前立花を拗ねさせてしまったとき、ぷんぷんと怒ったように暫くの間口を聞いてくれなかったことがある。
色んな立花の一面を見てきたと思うけど、拗ねた立花もなんだか猫みたいで可愛いと思う。
実際、拗ねてから少し経つとごめんなさいと戻ってくるのでやはり猫みたいだ。
立花が悪いわけじゃないのに、謝ってくるので俺もすぐに謝って、いつも通り。これがセオリーである。
そんなことを考えていると、立花が不安そうに俺の事を見つめていたことに気付く。
不思議に思い、話しかける。
「ん?どうかした?」
「い、いえ。もしかして服が似合ってなくて笑っているんじゃないかなって…」
立花はそう言って俯いてしまった。
俺は立花が落ちこんでしまったのを知って、咄嗟に本当の事を言う。
「い、いや。違うぞ立花。正直に言うとめちゃめちゃ似合ってて可愛い。本当にそこら辺のアイドルが裸足で逃げ出すレベルで。だから自信をもっていい」
俺は思っていることをすらすらと口に出す。
立花は俺の事を聞くと、顔を上げて顔を耳まで赤くした。
あ、あれ今度は怒った…?
俺が謝ろうとすると、先に立花が口を開いた。
「ゆ、結城さんは何時もずるいんです…」
「何が!?」
俺がそういうと、立花は上目遣いで俺がギリギリ聞こえるくらいの声でぼそりと喋った。
「…結城さんも、とても似合っていて格好良いですよ」
電車の音で少し聞き取りずらいが、立花の言っていることは全部頭に入ってきた。
立花の言葉に胸に温かいものがこみ上げてくるのを感じる。
心臓の鼓動もとても早くなり、どくどくと音がうるさく感じるほど。
立花の言う、ずるいというのが少しわかった気がした瞬間だった。
「あ、ありがとう」
たぶん今俺は、顔が赤くなってるだろう。でも立花も赤くなってるので、気にしない。
二人とも俯いて、ちらちらと相手の表情を窺いあう今の状況。
気まずいとは言えず、それどころか幸せにも思える空気だ。
そして何時の間にやら俺は立花と目が合っていて、まじまじと見つめ合っていた。
見つめ合うと、だんだん二人ともだんだん顔を綻ばせて、何時も通り会話を始めていた。
他愛のない会話を数分ぐらいしていると、電車の速度がどんどん遅くなり、目的地の駅に到着した。
もうすぐ電車のドアが開く。
「降りましょうか」
立花は俺の服の袖を優しく引っ張った。
「そうだな」
俺はその流れで立花の手をそっと取る。
一瞬拒まれるかと思って立花を見れば、立花は綺麗な目をぱちぱちとさせた後、嬉しそうに微笑んだ。
立花も優しく握り返してくる。
俺は立花と一緒に、笑顔で駅を出た。
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