27 彼女と待ち合わせ
今日は日曜日。
晴天に恵まれ、お出かけ日和だのデート日和だの、家にある小さなテレビが喋っている。
さっきから、服を手に取ってはしまって、また新しいのを手に取っての繰り返し。
昨日から来ていく服の準備もしていたし、さっさとそれを着ればいいものを、休日に女子と会うという事でやっぱり駄目だと朝早くからずっと選び直している。
しかも相手は立花だ。
立花じゃなくても服装には気を付けるのだが、やはり相手が立花だと私服がダサいと思われたら嫌なので、必要以上に悩んでいるのである。
いや俺あんまり服持ってないんだけどさ。その時まで良いと思って手に取るけど考えれば考えるほど悪く思っちゃうんだよな。
そんなこんなで待ち合わせまで残り一時間になってしまった。
結局俺は、昨日選んだ服を着て家から飛び出した。
悩んでた意味ない?これが一番の最善手なんだ。
将棋だって、沢山考えたけどやっぱり一番最初に考えてた手を打つってやつ。たぶんそれだと思う。
少し歩くと、すぐに目的地の駅が見えてきた。
流石にまだ来てないよな、と思って周りを見渡す。
イヤフォンをかけて無表情で歩く女性。
急いでいるように小走りで駅に駆け込む男性。
困ったように、男達の絡みを無視して躱しているベンチに座った容姿が整った女性。
その女性は、表情には出していないが、とても困っていそうだ。
普通に考えれば無視されてるんだし、嫌がってる事くらい分かるだろうに、男達は未だに話しかけ続けている。
というか絡まれてる人どこか既視感があるんだよな。
ん?
あれって…。もしかして立花?
俺は目を凝らしてその女性を見る。
男女問わず見惚れる様な顔に、服の上からでも分かるとても良いプロポーション。
今日のために良い服を選んでくれたんだろう、白色ののブラウスにクリーム色の膝まであるスカート、そして可愛らしい黒い靴を履いた立花が居た。小さな鞄を肩にかけており、とても似合っていた。
普段の立花も、勿論とても美人だと思うんだけど、なんだか彼氏とデートに行く彼女みたいで本当に気づかなかった。
いやいや、何を考えているんだ。早く立花のところに行かないと。
俺は小走りで立花のところまで行く。
立花は俯いて男達を無視しているので俺が近寄ったことに気付かない。
俺は出来るだけ明るく立花に声を掛けた。
「ごめん、立花。待った?」
立花は俺の声を聞くと、ばっと顔を上げて、顔に喜色が現れた。
ほんのり頬が赤い気がする。
周りの男達が何コイツ、みたいな感じで立花と俺の顔を行ったり来たりしている。
「結城さんっ!いえ、全然待っていません!さっき来たばかりです」
立花が初めて声を出したことに驚いたのか、それともそれ以外の事で驚いたのか、男達に驚愕の色が浮かぶ。
「えっ…結構前からここに居なかっ」
「静かにしてください」
男が喋り終わる前に、立花が喋ろうとした男に睨みを利かせる。
立花が睨むと、男は縮こまった。
男の発言からするに、立花は随分と待ってくれていたようだ。
俺とのお出かけを、楽しみにしてくれていたんだと知り、なんだか胸が温かくなる。
俺が立花と目を合わせ、何も言わないまま少し笑いあっていると、別の男が詰め寄ってきた。
「おい!立花ちゃんだっけ?こんな男なんかより、俺のほうが立花ちゃんを楽しませて上げれるぜ。一緒に来いよ」
俺達に詰め寄ってきた男は、立花の方に手を置いて俺から引き離そうとした。
男の行動に、俺はすかさず立花の手を取りこちらに引き寄せた。
「俺の友達に勝手に触らないでくれる?立花、行こう」
俺は立花の手を取ったまま、駅の中に入り、改札を抜けた。
全然使ってなかったけど、とても役に立ったよ。お母さんICカードを有難う。
立花は事前に切符を買っていたみたいで、すぐに抜けられた。
後ろから「待て!」って声が聞こえてきたけど、追ってくる気配もないので無視をした。
少し駅の中を歩いて、念のため少し離れたところで電車を待った。
ふと立花を見ると、ずっと俺を見て頬を赤くしている。
「立花、どうかした?」
俺が立花にそう聞くと、立花はふるふると頭を横に振って、口を開いた。
「また、助けられましたね」
「そうだった。前にもこんなことがあったな」
「はい。相変わらず結城さんは格好良かったです…。」
「ん?何か言った?」
「な、何でもありません!ほ、ほら電車来ましたよっ」
俺は立花に手を引かれて、電車に乗り込んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます