12 彼女の看病

何時もは嬉しい音だけど、今日はなんだか複雑な気持ちだった。


料理を届けに来てくれるのは嬉しいし、俺も毎日とっても美味しいご飯を食べれるのは幸せだと思う。


だけど今日は風邪を引いているから、立花に風邪を移してしまうと思った。


たぶん風邪を引いているのが分かれば、心配して色々としてくれるだろう。


烏滸おこがましいけど、少しそれを期待している自分がいた。


本当に情けないなと自分で思う。


看病をしてほしくないと言えば噓になるが、その分彼女に負担がかかる。


だから今日は申し訳ないけど、今日はドアを開けず出ないことにしよう。


「あっでもその場合立花を一人で帰らせることになるな…」


彼女の負担を考慮して居留守をすることにしたが、彼女に降りかかる魔の手については考えていなかった。


どうすればいいんだよ。何が正解なんだ。


布団の中で頭を抱えていると、玄関の扉が開く音がした。


「…お、お邪魔しますね」


なんでお邪魔しているんですかお嬢さん。


いやお邪魔じゃないんだけど、なんでお邪魔できるのかな。


ドアの鍵は閉めて…あれ?


お昼頃に起きたとき、部屋が余りにも臭いので、ゴミを捨てたんだっけ。


たまたまゴミの日だったからラッキーって思って一回家を出たような…。


頭の中で記憶がぐるぐる回る。


そして答えが出た。



「俺鍵閉め忘れた…」



実際それしか答えがないんだけど、本当に間抜けだ。


泥棒が入っても、盗るものなんて何もないけど、もしもの事があったら本当にどうするんだ。


勝手に入ってくる相手が立花だったからよかったけど、もしも泥棒だったら…。


怖くて鳥肌が立つな…。


立花が悪いことをするんじゃないのか、って思うかもしれないけど、彼女は俺のために日々時間を削って来てくれているんだ。


俺は立花のことをとても信用しているし、いい奴だとも思ってる。


だから今入ってこられると…。


リビングのドアが、ガチャリと開いた。


「失礼します…って結城さん!」


布団で寝ている俺と、目が合った。


立花が何事かと近寄ってくる。


俺はこれ以上近寄ると、風邪が移る危険性が上がるため否定の言葉を投げた。


「くっ来んな!」


立花はビクッとした。立花は歩むのを止め…ない。


寝ている近くに、正座する形で座り顔色を窺ってきた。


「熱があるみたいですね。少し待っていてください。台所を使いますね」


立花はそう言うと、最近ほぼ使っていない台所に歩いて行った。


情けないが、俺は立花の顔を見ると安心したのかもしれない。


そのまま意識を手放した。





「…さん、起きてください。結城さん」


肩を とんとん と叩かれ、俺は意識を少しずつ取り戻す。


相変わらず布団は濡れている。ほんとどんだけ汗掻くんだ。


周りを見回すようにすると、立花と目が合った。


「あ、あれ…立花。なんで」


「何度もインターフォンを鳴らしたのですが、一向にドアが開かないので失礼ながら入らせてもらいました」


「そ、そうだったな…」


「はい…これ食べてください」


立花がお皿を渡してくる。


そのお皿には、お粥が入っていた。


「お粥か…ありがとな」


目の前のお粥を見る。


お粥の真ん中に、鮭のほぐし身があり、美味しそうだ。


俺は蓮華を右手に持ったままお粥を観察していると、右手の蓮華が奪われた。


奪われたといっても、優しく取られた、という感じだが。


何事かと、立花の顔を見る。


立花は奪った蓮華で、お粥をを掬った。


「…しょうがないですね。はい、あーんしてください。あーん」


俺は立花の行動に、目をぱちぱちとさせるしかなかった…。

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