13 彼女のお粥

「どうかしましたか?口を開けてください」


立花は不思議そうに首を横に傾けている。


相手は至って平常心らしく、異性にあーんをすることには何も思っていないらしい。


俺はというと、さっきから心臓の音がうるさい。


あーんをされること自体、少し恥ずかしいのだが、相手が相手なのだ。


なんども言うが相手は誰もが見惚れる様な心優しい美少女なのだ。


そんな相手にあーんをされている。


非常に居た堪れない中、俺はゆっくりと口を開ける。


優しくお粥を口の中に入れられ、お粥を味わう。


汗を掻いていたので、鮭のほぐし身の塩分と、お粥が最高に美味しく感じる。


朝から何も食べていないので、すぐに胃に収まった。


「…ん。とっても美味しい」


「そうですか。それは良かったです」


彼女は少し微笑んだ。その笑顔がとても良くて、顔に熱が溜まる。


仕方の無い事だろう。


こんなに可愛い相手からあーんをされて、微笑まれたのだ。


今の俺の顔は、随分と赤くなっている事だろう。


立花は一度蓮華を置いて、俺のおでこに手を置いた。


「顔が赤いですね。熱でも出たんでしょうか」


「誰のせいだ」


彼女は俺の発言に不思議そうに首を傾げるが、あまり気にしていないらしく 「後で熱を測りましょう」 と言ってお粥を掬いまた俺にあーんをしてきた。


立花が何も気にしていなさそうなのがモヤモヤする。


先程からしてくれていることは、彼女が俺を心配してしてくれている事だ。


だが、俺も男なのだ。ここまで男として意識されないのは、少しむかつく。


俺は立花から蓮華を奪った。


「どうしたんですか?」


「あーんだ。ほらあーん」


「いえ、私は自分で食べられますし、お腹も空いていませんよ?」


俺は彼女に近づき、もう一度あーんを要求する。


「あーんだ。あーんをしろ」


「いっいえその…!あ…あーん」


また自分はいらないという事を言おうとしたので、もっと顔を近づけて無言の圧力をかけた。


彼女もそれに折れたのか、渋々といった形であーんをする。


俺は優しく彼女の口に蓮華を運んだ。


ぱくり、と彼女は口を閉じてもぐもぐとする。


俺と立花はずっと目が合ったまま。彼女はだんだんと頬と耳を赤色に染める。


「どうだ」


「と、とっても恥ずかしいです」


彼女は俺と目を逸らした。


「だろ。優しくしてくれるのは嬉しいが、あんまりされると俺も…」


恥ずかしいんだ と言おうとしたが、蓮華によって阻まれる。


彼女は今も顔を真っ赤にして、俺に無理やりあーんをしてきた。


どういう事だと、喋れないのでそういう視線を送る。


「お、お返し…です」


実際にお返しをしたのは俺なのだが、その発言に今度は俺が恥ずかしさのあまり顔を赤くした。


俺は気を紛らすために咀嚼に意識を集中し、飲み込む。


彼女はまだ白い頬を色付かせている。


俺はまた彼女から蓮華を奪い、お粥を掬い彼女の口に運ぶ。


「…あ、あーん」


俺はあーんと言っていないが、立花が自主的に台詞を言ってくれた。


またぱくりと食べて…さっきよりも頬を赤く染めた。


立花は、若干ジト目気味に俺を睨んでくる。


その睨みに対して俺は、「お返しだ」と言い、彼女がまた蓮華を取った。


この後、お粥が無くなるまでお返し合戦をし、互いに間接キスをしていることに気付いて、また顔を赤く染めるのだった。



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