21回目
弱腰ペンギン
21回目
「ゴーーーーール!」
解説の声がテレビから響いてくる。
「やりました、追加点です!」
得点が表示される。21-0。なんだこれは。
「もはや日本に勝てない国はありません!」
サッカーだぞ。おい。
日本代表の試合だぞ。それがなんで前半30分で21点取られてるんだよ!
日本の選手が急いでハーフラインまで戻ってるけど、まだ勝てる気でいるのかよ!
無理だろ!
「さぁ、ここれから前半戦のハイライトです!」
え、違う違う。まだ10分以上残ってる。
「あぁ、違いました。これダイジェストじゃありませーん! 試合はまだ続きます!」
アナウンサーも気がくるってしまっている。そりゃ、まぁそうだよな。
こうしていいところなしのまま、前半が終わった。
「それではようやく前半のハイライトです!」
ハーフタイムに入り、中継映像が切り替わる。はじめは日本代表をフツーに応援していたスタッフの人たちが、あまりの結果にみんな狂い始めているのがわかる。
「ここです! ここのディフェンス! なぜ棒立ちなのか!」
画面ではセンターバックでキャプテンの石崎が相手をスルーしている映像が流れる。
「ありえませーん! 抜かれたなら追いかけないと! 少しでもプレッシャーを与えていれば先取点は防げたかもしれないのに!」
アナウンサーのテンションが高い。高すぎる。もうやってられないんだろうな。わかります。俺も中継見てられない。
「ここからあれよあれよという間に得点が入ります。開始5分でなんと10得点! 守る気が無いとしか思えません!」
ホントどうしたんだろう。代表レベルでは、普通起こらないことだろう。
「選手は家族を人質にでも取られているのでしょうか! 見てくださいこのロングドリブル! 取られないとわかってるからしているようにしか見えません!」
相手チームのドリブルが、10メートル以上転がっているのが見える。しかし、ディフェンダーが誰一人としてボールに詰め寄らない。おかしい。おかしすぎる。
「こんな調子で後半戦、間もなくスタートでぇぇす!」
やけくそになったアナウンサー、逆に面白い。
「打って変わってゴーーーール!」
後半戦。日本がボコスカ得点を決め始めた。
まぁ、最初がおかしかったんだよ。でもこれもおかしいよな。
「19点目! あと2点で追いつけます! ッハッハー! わけわかりません!」
そう。相手が弱すぎる。まるで強力な下剤でも飲んだかのように動きが鈍い。というのも全員が若干内またで、接触を避けているように見えるのだ。
「でも時間はありません。後半もアディショナルタイムによっては……え、無し!? 無しですか!? 時計泊まったりしてたでしょう!」
相手ディフェンダーが倒れ、尻を抑えて動けなくなったことがある。担架で運ばれて行ったが、その間のプレーは止まっていた。実に5分。
ロスタイムが1分くらいあってもよさそうだが、どういうことだろう。
「なんと日本、後2分の間に2点を返さなければゴーーーーール! 決めました!」
そうこうしている間に得点が決まった。選手が全員ハーフラインに戻っていく。
そしてボールを蹴りだすはずが、事件が起こった。
「おーっといけませーん。日本陣地内に相手選手が残ったままです! これでは試合が始まりません。審判が笛を……吹いた! さすがに遅延行為で……おっと、どうした!? 動けないのか!」
日本陣地内にいた選手が、尻を抑えて倒れ、動けなくなった。
カメラが倒れた選手の顔にズームする。懸命に何かをこらえ、力んでいる様子が写された。
これは……。
「攻められると思って前に進んでいた選手が戻れなくなったということでしょうか! これは大変だ! すぐに担架が呼ばれます! あっと! 何かがはみ出――」
そこで画面がお花畑の映像に切り替わる。
すぐにピッチの映像へと戻ると。
「さぁ、気にせず試合再開です!」
何があった。漏らしたのか。粗相したのか。SOSOUか。
「ボールが蹴られますが、相手チーム誰も動けなーーい! ボールは転々と転がっていく。それを石崎……お前はディフェンダーだろ! なぜそこにいる!」
突っ込むな解説。
「石崎がボールを運びます。動けない敵選手の間を華麗……でもないドリブルで突破していく!」
そこは褒めてやれよ。
「そしてセンタリングを……上げられなかった! ボールは逸れてサイドバックのほうへ!」
そこはサイドバックへのパスとしようよ。どんだけ石崎を下に見てるんだよ。
「そしてそのままセンタリングがあが……らずペナルティエリア内! シュート! これはゴールキーパーの腹にあたりました! おっと、キーパ動けない! 無人のゴールにシュー! 21点目です! この試合はサッカーの試合です! わけがわかりません!」
俺もわけがわからないよ。
「ここで試合終了のホイッスル! 同点のまま試合はPKへともつれ込みました!」
延長戦は無いんだ。
「さぁ、時間をかけて相手チームがゴール前まで集まります。全員お尻を押さえております。一体どういうことでしょうか」
そういうことじゃないかな。
「さぁ、日本のキックからスター……おっと、早い! そして枠の外へ飛んでいった!」
……は?
「時間をかけまして、相手チームのセッティングが完了しました。果たしてキックは出来るのか! おっと、蹴った! 蹴りましたが勢いが足りない! そしてキーパーの足元で止まったぁ!」
その後もグダグダな試合が続き、0-0のまま5人目を迎えた。
「さぁ、どうした日本人選手。なぜ枠内に飛ばない!」
アナウンサーも切れぎみだ。
それもそうだろう。キッカーのボールが一つも枠内を捉えていないのだ。明らかにおかしい。
「最後の5人目となるのか、石崎。今……蹴りません。どうしたことか。笛は鳴っているぞ!」
石崎はボールをセットしたが蹴るのをためらっているようだった。
その証拠に顔を下に向けたまま動かない。
「動け石崎、お前が蹴らなきゃ先に進まない!」
アナウンサーの割と非情な声が届いたのか、石崎は顔を上げると、ボールを蹴った。
ボールはゴールのコーナーに吸い込まれていくと、日本の勝利が決まった。
それと同時に画面が揺れ、中継が切断された。
「えー。この度は、石崎選手の、家族が――」
画面には石崎選手の家族が何者かに襲撃を受けたというニュースが写っている。
警備をしていた人間によって犯人は取り押さえられ、家族に危害は加えられなかったとのことだ。
「当日、日本人選手らにこのような手紙が送られーー」
脅迫が、あったそうだ。
曰く『プレーをするな。相手チームの進路をふさいだだけで家族に被害が及ぶぞ』とのこと。
後半は日本政府が動いたことにより家族の安全が確保された。しかし、延長戦に入る前、何者かによって同じ脅迫文が送られてきた。
念のためにと動きを鈍くさせた選手たちだったが、最後の最後、石崎だけはゴールを挙げてしまった。
それは日本の勝利のために、であったと。
「以上が、国際Aマッチにおける――」
「っていうゲーム作ったんだけど」
「クソゲーじゃね?」
21回目 弱腰ペンギン @kuwentorow
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