第6話 アネモネの花言葉
「ねぇ
「確かに可愛いー! でも、
「え、私を台湾かどこかのマダムかと思ってる?」
二人の美少女のキャッキャウフフな買い物風景を見ながら、俺と上杉は近くのベンチでボーッと座っていた。
「なあ上杉。女子の買い物ってなが」
「それ以上言うな。デートのセッティングを頼んだのはお前なんだから文句言うな」
上杉の冷たい言い草に俺は深くため息をつく。
そう言う上杉も、疲れているのか上を見上げ呆然としている。
それもそのはず。未華ちゃんと佳子がお店に入って行ってから1時間近く経っていた。
いや、服選びに時間掛かりすぎだろ。
「上杉〜! お前に聞きたい事があるんだけど」
「佳子のスリーサイズは教えないぞ」
「そんなの見たら予想つくし、別に知りたいほどの身体してないだろ」
「それ、本人に殺されるからやめとけよ」
と、言いつつ上杉は俺をつい後退りしてしまうほどの圧で睨んでいた。その前にお前に殺されそうなんだが。
え、お前らって普通の幼馴染だよな?
俺はこの殺気から逃れるように少しベンチの端に行き上杉と距離を取る。
改めてショッピングモール内をじっくりと見回す。土曜日なので家族連れの人が多く、子供の嬉々とした楽しげで幸せな声が響いていて、俺まで幸せな気持ちになる。
「あの、すみません」
「……あ、はい!? 俺っすか」
ボーッと辺りを見回していると、近くに来た女性に話しかけられる。
ピンクのコートを身を包み、おっとりとした顔の女性だった。それに加えて、色っぽい雰囲気があり、目が奪われる。
「あの、この辺りでアネモネの花のブローチ見ませんでした? その辺りで落としちゃって……」
女性はだんだんトーンを落としながら話す。かなり落ち込んでいるようだ。
「一緒に探しますよ!」
「え!? 良いんですか?」
「困ってる人を見過ごしたら、寝心地悪いので!」
「ありがとうございます!」
女性は俺の手を掴み感謝してくる。顔が一気に近くなり、女性の色っぽい香水の匂いがより脳に届く。
心臓の鼓動がうるさくて視界も狭ばる。いっその事こと止まってくれないかな。
「おい上杉! お前も手伝え!」
「お、おう……あのあなたは」
「ブローチはこの辺で落としたんですか?」
上杉が何かを言おうとしていたが、関係なしに俺は女性に質問する。
「え? ……ええ。今、きた道を戻ってるけど、ここのお店から出た時は付けてたのよ」
「分かりました! この辺りっすね!」
上杉もベンチから立ち上がり、ブローチを探し始める。
床の隅々まで確認して、見過ごしが無いようにする。
「本当にありがとう。手伝ってくれて」
女性は俺の近くに来て、改めてお礼をしてくれる。
「良いんですよ! 困った時はお互い様っすよ。アネモネのブローチですよね。彼氏さんから貰ったんですか?」
「……どうしてそう思うの?」
「お姉さん綺麗ですし。それに、アネモネの花言葉ですよ」
「どんな、花言葉なの?」
「えっとですね。赤色だと君を愛する。白色だと期待や希望、紫とかは信じて待つ。って意味なんですよ」
「へぇ……そうなのね」
「お姉さんのは何色なんですか?」
「……私のは、紫のアネモネですよ」
「へぇ! あなたの雰囲気にぴったりですね!」
俺は笑いかけると、女性は笑い返してくれる。
「でも、彼氏さんアネモネを送るなんてセンスないっすね」
「え?」
「だって、アネモネは、はかない恋とか、見捨てられたとかのネガティブな意味もあるので」
「……そう、なんだ」
「あ、すみません! 別に彼氏さんやアネモネを否定したわけじゃなくて」
明らかに元気をなくしてしまった女性に必死に俺は弁明する。
やらかしてしまった。
「見つけたぞー!」
俺が落ち込んだ女性にかける言葉に必死になっていた時、少し遠くから上杉の声が聞こえる。
俺は安堵し女性に語りかける。
「良かったですね! 見つかりましたよ!」
「あ、はい! 良かったです」
女性の声音は、少し弱くなっていた。
◆
「御来店ありがとうございました〜!」
「白色カーディガンに黄色スカートは未華ちゃんにめちゃめちゃ似合ってたわよ! これは勝負服確定ね!」
「佳子ちゃんの買った赤ドレスは高級感あって良かったよ」
私達は、服屋での買い物を済ませて店から出る。
途中から、試着をお互いし合って時間が掛かってしまい、結局1時間ほど桜井君と上杉さんを待たせてしまった。
飲み物くらいは奢ってあげた方がいいかもしれない。
ちなみに湊は、待ってる時間にゲーセンで遊んでくるような奴だったので愛はなかったみたい。悲しいね! いや待たせるのは悪いんだけどね?
「あれ、
「あれ、本当だ」
私達が店を出ると、二人の姿はなかった。どこか見に行ったのだろうか。
周りを見回すと、数十メートル離れている所に、上杉さんと桜井君と、親しげに話す女性がいた。
「あれー! 風磨!!何やって……わぁ。綺麗な人……」
佳子ちゃんも、桜井君達を見つけて小走りで向かうが、近くにいた女性を見て呆然としていた。
私も近くに駆け寄る。
そこにいた女性は私を見て、明るい声で話しかけて来た。
「あー! 未華ちゃん! 久しぶり! と言っても1ヶ月ぶりくらいかしら?」
大人っぽい女性は私に親しく絡んでくる。
「…………っあ! もしかして花園先輩!?」
「正解! 大学デビューで、雰囲気変わって分からなかった?」
その女性は私にウインクをする。
花園生徒会長。一つ上の学年で、いつも問題を湊や私に持ってくるトラブル屋さんだ。
卒業してから、1ヶ月ほどしか経っていないのに、すっかり大人の雰囲気を醸し出していて、まるで別人だ。
「花園先輩……? あ、あの毒舌の薔薇姫として名高いあの生徒会長!? おい、上杉気付いてたか?」
「ああ、何となくな。……というか先輩の顔くらいは覚えておけよ」
「なんで教えてくれなかったんだよぉ〜!」
桜井君は上杉さんと戯れあっているが、私は無視して花園先輩に向き直す。
「それで、花園先輩はどうして桜井君達と?」
「探し物を手伝ってもらっててね。流石サッカー部のキャプテンね。しっかり手伝ってくれたの」
「はぁ……」
花園先輩は手に握っているブローチを眺めながら言った。優しく何かを思い返すように見つめている。
「あ、私はもう行くね、未華ちゃん。またね! 桜井君も上杉君も神城さんも、また会いましょう」
カツカツと、ヒールの音を鳴らしながら、去ろうとする。そして、花園先輩は私の隣を通る時に耳元で囁く。
「未華ちゃん、もう新しい彼氏作ったの?」
「ち、ちがっ!」
私はとっさに顔を赤くして、否定する。手も首もブンブンと振りのけぞる姿は、とても怪しかったがそこまで考える余裕もなかった。
花園先輩はからかうように笑う。
「高校の青春なんて、一瞬だから、楽しめばいいのよ。過去に囚われたまま浪費するなんて、愚の骨頂だと思う」
彼女はそう吐き捨てると、私の手にブローチを握らせて歩いて行った。
彼女の先には、優しく彼女を見つめる男性がいた。先輩は、その男性の隣に並ぶと、少し距離を取り二人は歩き始める。
ああ、先輩。あなたはもう新しい生活を始めてるんですね。流石大学デビュー。
「うちの生徒会長、めちゃめちゃ大人っぽくなってたね未華ちゃん」
「うん、そうだね」
佳子ちゃんは、花園先輩の雰囲気に圧倒され感嘆していた。
「私も、大人な女性になりたい」
「……なれると思うよ!」
「え、未華ちゃん今私の身長を一回見た? 言いたい事あるの?」
「え!? 見てない見てない! 誤解だよ!」
視線がバレていた……。
私は、渡されたブローチを握りしめて、花園先輩を見えなくなるまでただ見つめていた。
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