第5話 買い物に行きたい

「芽衣ちゃん怖かった……」


「それはお姉ちゃんが全面的に悪い」


 私は、あの後芽衣ちゃんに質問攻めを受け、しっかりと怒られた。

 芽衣ちゃんの目は、人を殺してそうな冷たい目で言い訳も許されなかった。

 楓ちゃんは、湊から注意された事の方が、心に響いたようだった。

 当分の間はこんな問題を起こさないだろう。


 私は、妹とアイスを食べながらたわいもない話をする。姉妹での会話は、日頃の日課だ。去年、家出にまで発展する大喧嘩が起こってからこうするようになった。

 意思や情報の共有によって勘違いは減り、前より仲良くなったので、これを発案した湊には感謝している。


「だってさ、私は楓ちゃんに脅されてたからさ」


「一緒に行ったんだから同罪だよ。結局、お姉ちゃんは湊兄みなとにいのことを気にしてるんだよ。楓さんと同じだよ?」


「楓ちゃんと同じにされると私の尊厳がなくなるんだけど?」


「いやいや、尊厳なんてお姉ちゃんには無いもの同然じゃん」


「加奈? ちょっとお口が悪いわよ?」


「反抗期なので〜」


「都合の良い言葉のように反抗期を使うなぁ!」


 私が妹を掴もうとすると、さっと立ち上がり部屋に逃げてしまう。

 最近、触ろうとすると逃げられる。アレ意外と嫌われてる?

 

 私は少しショックを受けて放心状態に陥っていると、携帯の通知が軽やかに鳴った。

 確認すると、遊びのお誘いだった。誰だろう。名前の所を見ると、「神城佳子かみじょうかこ」と書かれている。

 佳子ちゃんからだ!

 私は、すぐに既読して、鼻歌を歌いながら意気揚々と了解!と送る。明日、一緒にお買い物する約束をした。

 楽しみだなと思いながら、スキップをして部屋へと向かう。


「お姉ちゃん、浮かれすぎじゃない? ……もしかして彼氏!?」


「違うわい!」


 まだ廊下にいた加奈に少し引かれたが、対して気にはならなかった。


    ◆


「お待たせ〜! 未華みはなちゃん待った?」


「ううん! 30分前に来た所!」


「いや結構待ってない!?」


 私は、次の日持ってる服で1番お気に入りのやつを着てショッピングモールへと来ていた。

 空は雲一つない快晴で、家を出た時から気分が上がって鼻歌を歌っていた。


 時間ぴったりに来た佳子かこちゃんは、真っ赤な服を来て、高いヒールを履いている。より派手さに磨きが掛かっていて、綺麗だった。

 

「急なお誘いでごめんね未華ちゃん。私、友達少ないから勝手が分からなくて……」


 佳子ちゃんは、申し訳なさそうな目でこちらを見てくる。


「良いよ良いよ全然! 私は、嬉しかったし」


「未華ちゃんって、めちゃめちゃ良い子〜!」


 佳子ちゃんは私に飛びついてくる。私は必死にバランスを取り、佳子ちゃんの顔を見る。とても嬉しそうな顔をしていて、悪い気はしない。


「それじゃあ、どこ行く?」


「おー! 佳子じゃん」


 私が佳子ちゃんに、今後の予定を聞こうとすると、前の方からやって来た男二人組の一人が話しかけてくる。

 茶髪で、耳にピアスを開けている男だった。指にはゴツゴツした指輪をはめていて、ドクロの形のものもある。

 ……ダッサ。ファッションの感性が中学生止まりじゃん。


「……あ、山根」


 その二人を見て、佳子ちゃんは青ざめ小刻みに震え出す。

 普通では無いのが分かり、私は佳子ちゃんの手を強く握る。


「佳子、今日は男と遊ばないのか? あ、それともこれから遊ぶのか? なら俺たちと遊ぼうぜ」


 山根と呼ばれた男はニヤニヤと笑いながら私達に話しかけてくる。

 そして、佳子ちゃんに手を伸ばす


「いや……っ!」


 佳子ちゃんは悲鳴をあげ数歩後退りする。

 私はすかさず間に入ってその男を睨みつける。


「あの、すみません」


「なんだ? 佳子のお友達か? ……意外と可愛いじゃん。ねえ、これから遊びに行くなら俺たちと行こうぜ」


 私が相手になっても態度を崩さない男。

 私は更に冷たく睨む。


「嫌です。私、チャラい人苦手なので」


「良いじゃーん! 佳子と友達なら、男漁りしてるんでしょ? 今日だけだからさぁ」


「本当しつこいですね。……私、心に決めた人がいるので」


「遊ぶだけなら、問題ないって」


「だから嫌だと言って」


「あの、そいつら俺らのツレなんで」


 話が平行線上で、そろそろ逃げようかと思った時、後ろから声が聞こえて来た。

 私はすぐ振り向いて見る。

 すると佳子ちゃんも振り向き、弱々しく声を上げる。


風磨ふうまぁ……」


 風磨。上杉さんだ。サッカー部のキャプテンで、佳子ちゃんの幼馴染。

 グラウンドで見た時とは違い、眼鏡をかけていて更にクールな見た目となっていた。


「おお、上杉じゃねえか。まだこの女のお世話してるのか! ったく物好きだねぇ」


 山根と呼ばれた私服のダサい男は、笑いながら上杉さんを挑発する。


「でも絡んでくるんだから、お前の方が物好きだろ」


 上杉さんも、すかさず山根を煽り応戦する。


「……あっそ。 行くぞ」


 男は、連れの男と一緒に去っていった。


 ひと段落して、深呼吸をする。私に掴まっていた佳子ちゃんも落ち着いたようで、少しずつ顔の色が良くなっていく。


「風磨ー! ありがとー! 助かったよぉ〜!」


 佳子ちゃんは、上杉さんに泣いて飛びつく。

 上杉さんも、佳子ちゃんの頭を撫でて落ち着かせていた。


「ありがとうございます、途中で助けてもらって」


「いえいえ。佳子を守ろうと前に出てくれてこちらこそありがたいです」


 私がお礼を言うと、上杉さんも優しく笑いお礼をしてくる。


「なんで風磨が保護者みたいな反応してるのさ!」


「いや保護者みたいなもんだろ……」


 佳子ちゃんが、頬を膨らませ上杉さんにブーブー言うと、上杉さんは自然に頭を撫でていた。

 見ていて微笑ましかったが、私が湊にやられる所を想像してしまい、すぐ話を切り替える。


「ところで、なんで上杉さんはここに?」


「え? 今日は佳子に呼ばれて来たんだが……もしかして聞いてない?」


「あ! ごめん! 未華ちゃんに、言うの忘れてた!」 


 佳子ちゃんは土下座する勢いで謝ってくる。


「あー、俺迷惑なら帰るけど」


「いえいえ! 全然迷惑じゃないですウェルカムです」


「そうか。なら良かった」


 上杉さんは安心した様子でため息をついた後、佳子ちゃんに「ちゃんと言っておけ」とキツく叱っていた。

 その時、後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえる。


「おーい、悪い遅れた……って、なんで未華みはなちゃんがいんの?」


 そこには、桜井君が息を切らしながら、私の方を不思議そうに見る。私の方が聞きたいよ。

 上杉さんがいるので、何となく察してはいたけど……


「桜井君も一緒なんだ……」


 私は拍子抜けした声を出す。

 そんな私の心情を一切顧みず、桜井君ははしゃいでいる。


「未華ちゃん居るなんてラッキー! あ、これもしかしてダブルデートってやつでは!?」


 よろこんでガッツポーズまで取っている。声大きいし周りに見られる恥ずかしい。


「未華ちゃん。萊斗らいともいるけど大丈夫?」


 佳子ちゃんはまた申し訳なさそうに私に耳打ちをしてくる。

 そんな小動物みたいな顔で私を見ないで……。嫌なんて言えないでしょ。


「あー、うん。全然問題ないよー!」


 手をブンブン振り、大丈夫アピールをする。

 安堵した様子の佳子ちゃんを見て、私もひと息付く。


「よっしゃー! じゃ、行こうぜ」


 桜井君が先陣を切って歩き出した。

 私達は、その後をついて行く。


「あら。あれって……」


 私は、迫る人物にまだ気付けていなかった。

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