09 天使と聖女の出会い
夢を見ていた。
何百年も昔の夢だ。
その頃、俺は悪魔ではなく天使だった。
世界の平穏を願い人間を心から愛し、神様に遣える存在だった。
ある日、俺は神様に頼まれてある国にの聖女の様子を見に行くことになった。
どこにでも自在に行くことの出来る神様だが、ある国で聖女がいるはずの教会には入ることが出来ないという。
不思議に思った神様は、入れない理由の調査も兼ねて俺を派遣したのだ。
俺は神様から直接与えられた仕事に気合いをいれながら目的の国に降り立った。
人間に変装し、真っ白い翼は人間には見えないように隠して教会に向かう。
教会は一見普通の建物だった。他の国と同じ様な作りで極端に豪華なわけでもボロいわけでもない。
神様がその場所に入れなくなるというのは人間が神様を拒絶している時くらいだ。
どんなに愛していても相手に嫌われたり拒絶されたら近付きがたくなってしまうように、人間が『神様なんて存在しない』『神様なんて嫌いだ』と拒絶してしまえば神様はどんなに願ってもその場所にいくことが出来ない。
そして神様を拒絶している人間は悪魔に魅いられやすい。
俺はてっきり悪魔側に落ちてしまった人間達が教会を壊したり、私利私欲のために私物化しているのではと考えたがそうではないようだ。
ならばどうして神様は入ってこられないのかと教会の入り口で思案していると一人のシスターが声をかけてきた。
「お祈りにこられた方ですか?どうぞ、遠慮なくお入りください」
どうやら教会に入っていいか悩んでいると思われたらしい。
神様が入れない場所でも人間に変装した天使なら入ることが出来る。俺は理由を探るためシスターに招かれるまま教会の中に足を踏み入れた。
案内され礼拝堂に向かう途中でふとシスターに聖女の事を尋ねてみた。
自分は他国から来たのだがこの国の聖女はどの様な方なのか、お会いすることは出来るのか、と。
するとシスターは笑顔で答えた。
「聖女様は素晴らしい方ですよ、ご覧になりますか?」
シスターの言葉が少し気になったが頷く。
会う、ではなく見る、というのはどういうことだろうか。
そう思いながらシスターについていった天使は聖女の姿を見て愕然とした。
その聖女は透き通った青い瞳と、美しい金色の髪の少女だった。すらりとした手足は長く目を奪われてしまうほど美しい。
しかし聖女の容姿が霞むほどにその回りは異様だった。
鉄の檻のなかで手足に鎖をつけられ、まるで猛獣のように飼われていたのだ。
人間の扱いとは到底思えないそれに言葉がでない天使の横でシスターはふわりと微笑む。
「現在の司教様が発案なされたのです。他国の方は驚かれるかもしれませんが、こうすることで聖女様は美しさと清らかさを守ることが出来るのです。素晴らしいでしょう?」
シスターは本気でそう思っているようだ。そして回りにいる他のシスターや教会を訪れた人間達もそれを当たり前のように受け入れている状況に目眩がした。
これが異常だとなぜ誰も気が付かないのか。
檻の中の聖女の目にはまるで生気が宿っていない、まるで人形のようだ。
扱いがこれでは生気が無くなるのも無理はない。
神様がこの国を訪れることが出来ないのも、この聖女が神様を拒絶しているからだろう。猛獣のように閉じ込められ育てられたのなら、教会が信仰している神様を拒絶してもおかしくはない。
不意に天使と聖女の視線がぶつかった。
その瞬間わずかに聖女の唇が動く。
『たすけて』
そう読み取れた。
彼女は助けを求めているのだ。
もしこの場で今すぐ助けようとすれば教会の人間は全力で止めるだろうし、人間に変装している今は天使に与えられている力も使えない。
不利な状況で動くことが出来ないと考え、俺は夜を待ってから聖女を助け出すことにした。
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