36章 前代未聞の大勝負
144話 5組チーム最大の危機
「まったく、困ったもんよねぇ……」
救護テントの下では千景ちゃんがため息をついていた。
お昼ごはんを終えて千景ちゃんに呼ばれると、そこには腕組みした千景ちゃんと養護の先生。
そしてばつが悪そうに座っている同じクラスの内田くん。
「どうしたの?」
「どうもこうも。昼休みにふざけていて足ひねってるのよ。これじゃ最後のリレーに出すわけにはいかないわぁ」
「えー?」
「でしょう? まったく……。ちゃんとある見せ場の前に女子にいいところ見せようとするから! とりあえず家に帰れるまでの応急処置とテーピングをしたけれど、このあと走るのは厳禁! いいわね!」
修学旅行で私が同じく足を挫いたときに、心配しながら素早く対応してくれた、まさに保健委員が天職という彼女のイメージはどこへやら。
内田くんにしたら鬼軍曹にも見えちゃうくらいの迫力だ。
千景ちゃんも千景ちゃんで、挫いた足首をこれ以上にないくらいがっちり固めて、内田くんは走ることはもちろん、歩くことすらびっこを引きながらでないとできないくらいにガッチリの包帯グルグル巻き。
確かに内田君は体育委員。午前中の「借りもの競争」でのことを思い出すと、個人的な感情もかなり入ってるなと思ったのは私だけかな?
みんなで3年5組の席に戻ると、やはりその話題で持ち切りだ。
最終種目の選抜リレーのアンカーに致命的故障発生というアクシデント。
運動部所属の多い3組は、相変わらず個人レース系は強いけど、始まってみれば今年の5組はそれに負けていない。
特に2年生が頑張ってくれているからで、これを無駄にはしたくない。
だからうちのクラスの中でも一番俊足な内田くんをリーダー兼アンカーに持ってきていたのに。
競技中のケガが原因というならまだ言い訳もつくけれど、残念ながら今回はそうじゃない……。
最終種目の選抜リレーは学年も男女も全て混合。言い方を変えれば、勝利のためには無差別でメンバーを選べる。
学年ごとの人数は決まってるけれど、選手の選出は生徒たちに任せられるから、足の速い女子が出ることも普通にある。
ただし、アクシデント時の代走者については他のスピード系の競技に出ていない者という条件がつく。
正直このルールさえなければ、他の子を出すこともできるのだけど、アンカーを任せられる力量があるかと言えば……。
「……松本、お前が代わりに出てくれ。これしか他に方法がない……」
「え? 私?!」
それまでうなだれていた内田くんの発言にみんなが驚く。
「まさか、気でも狂ったか?」
「私走れないよ?」
驚いて返した私に、彼は首を振った。
「さっき。突っ走ったじゃねぇか。あれで全力とは言わせねぇぞ?」
「えっ……」
私が固まっている前で、内田くんはクラスのリレーメンバーを集めて告げた。
「アンカーは松本に変更。それならルール上も問題ない。それから、順番を変えて橘を松本の直前に持ってくる。練習したこともない一発勝負だからバトンミス防止にはそれ以外に考えられない。その代わり前半に3年と1年を混ぜる。他のチームの頭は1年生が中心だ。最初から周りとかペース配分は考えずに全力で後ろを引き離せ。十分に貯金を稼いでから橘と松本につなげ。
それって……、昔の私を知っているみたいじゃない……。
自棄になっているんじゃない。本当に私をアンカーにして勝負を預けているんだ……。
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