86話 そんなに大切なものを!?
「でも、お二人とも偶然に再会できたって言ってましたね。どこにいるかわからない結花さんとはどうやって?」
俺は花菜に聞いていながら、腑に落ちていなかったところを陽人さんに聞いてみることにした。
「そうだったな……。本当に嘘みたいな偶然の話だった……。仕事帰りに毎日夕飯を食べるように通い始めた店で、結花がアルバイトをしていたなんて。あれは結花の18歳の誕生日の日だった。いつもの店が『誕生日会で貸し切り』というので帰ろうとしたときだった。ユカちゃんって名前が聞こえて……。最初は人違いかと思ったよ。思わずブラインドの隙間から覗き込んで確かめたんだ」
「それが結花さんだったんですね」
「そう、顔まで見て結花本人だと確認した。のろけと言われても否定はしないよ。二度と会えないと思ったあの結花が生きていてくれた。それどころか社会復帰まで果たそうとしていた。ガチでうれし泣きだったなぁ」
陽人さんも職だけでなく、住所まで変えてから半年後。
偶然をきっかけに再会を果たした早々に、結花さんの気持ちが以前と変わっていないことを知った。
もう次は無いと自分に言い聞かせ、陽人さんから交際を申し込んだ。結花さんも泣いて喜んでくれた。
「それでも、結花とは何度も危ないときがあった。最後は仕事でニューヨークに行かなくてはならないと聞いたとき。さっきも話したけれど、すぐに彼女のご両親にお願いをした。
「凄かったんですね」
「学生時代に恋人を亡くした僕のトラウマというものに、結花だけが気づいて治してくれた。他の人では無理だった。だからきっと他から見たら呆れられるくらいに必死に見えたと思うよ」
そう、ここがこのお二人と俺たちで決定的に違うところ。花菜と旧知の仲であることは、大きなアドバンテージでもあると同時に、知られるタイミングを誤ると後ろ指を指されやすいウィークポイントでもある。
「最後に結花のお母さんは言ってくれたんです。『結花はもう心を決めています。もしお相手が小島先生以外でしたら許しません』とね。花菜ちゃんのご両親はもう他界されているけれど、生前に両家からOKをもらえている二人が羨ましいくらいだよ」
「さっきの、学校内での協力者ですが、僕に心当たりがあります……」
陽人さんが笑っているところに俺が言葉を出しかけたところで、隣の部屋に消えていた二人が戻ってきた。
「ねぇ、花菜ちゃんの大変身。ステキでしょ?」
「結花、それは……」
陽人さんが驚いて結花さんを見ている。やはり性格が似ている二人は風貌も似てくるのだろうか。よく見れば顔や髪型は違うのだけど、パッと並んでみると雰囲気は驚くほどよく似ている。
「えっ? 結花先生?」
「うん。いいの」
俺が花菜と視線を合わせると、結花さんと陽人さんの間では意図が分かったようで、優しく頷いて種明かしをしてくれた。
「やっぱり似るもんなんだなぁ。いま花菜ちゃんが着ているものは、僕がニューヨークで結花にプロポーズと婚約をした日、彼女が着ていたコーディネートそのものなんですよ」
「そんな大事なものを……」
隣にいる恋愛の大先輩を見た花菜の瞳が潤んだのを、その時の俺は見逃さなかった。
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