84話 珠実園でお仕事すれば!?
「それなんだけどね。花菜ちゃん、こんどから
「えっ?」
考えたこともないアイデアだった。でも、そんなことが本当にできるの?
「うちも一般開放の児童向け図書スペースを持ってるし、花菜ちゃんは児童コーナーでは大人気だというし。どちらも市の施設だから勤務先変更で手続きは難しくないって」
この結花先生の口ぶりだと、茜音先生にもすでに相談して、ある程度の話もしてあるんだと思う。
「私で役に立ちますか?」
「もちろん! 休日とか放課後に私のお手伝いとして入ってくれれば助かるし、園なら学校で探ってくるような人だって職場に口を出せる人はいない。アルバイト代としての花菜ちゃんの収入も続けられる。このあとに二人で暮らし始めても、長谷川先生の帰宅途中に寄ってもらって、様子を見て一緒に帰れば大丈夫じゃない? 花菜ちゃんの住所はそのまま珠実園に残しておくことは1年くらい問題ないし」
「本当に……、いいんですか?」
異例・裏技だらけの話だ。お仕事の場所を変更することはまだしも、それに加えて私たちふたりが一緒に暮らし始めても周りから不思議に思われない妙案だけど。
「ええ。住民票の住所と普段過ごしている珠実園の住所が違う子がほとんどよ。外泊だって里親さんが決まりそうなときには、何日間か体験でお泊まりに出すなんてことはよくあること。一度きりではなくて、何度かに分けて徐々に慣れさせるケースもあるから、園の中でも目立つこともないし大丈夫」
「結花先生、すごいこと考えるんですね……」
私たちが顔を見合わせていると、結花先生と陽人さんは笑っていた。
「自分たちがこれだけのことやってるから、多少のことでは驚かないわ。花菜ちゃんたちには頑張って欲しいの。それでも大変だとは思うけどね」
結花先生は立ち上がると隣の部屋のクローゼットの前に私を連れてきてくれた。
「私からの応援。そうね花菜ちゃんなら……。やっぱりこれかな?」
茜音先生がくれたスカートがチャコールブラウンで、これから冬場だし、「ブラウスはいいの貰ってるのね、茜音先生には負けられないわ……」と楽しそうに呟きながら、上品なピンストライプが入ったネイビー色のロング丈ジャンパースカートと、可愛い大きな丸襟と細いリボンタイがついたブラウスを選んでくれた。
「うん、スカートの着丈も大丈夫。やっぱり若いなぁ。ウエスト細くて綺麗ねぇ」
結花先生はその場で私に着せてくれて、ブラウスのリボンタイと、ショルダーストラップとウエストのアジャスターベルトを調整してくれた。余った部分は大きく結んで、飾りのように仕立て終わると満足そうに手を叩く。
「靴はこれかな。偶然サイズが同じなんて……。足が不安ならヒールは低いほうがいいもんね。よし、こっちもOK。これで完成だねっ!」
今日も履いてきたのは学生にはお馴染みでオールマイティーに使える黒のローファー。でも、結花先生が靴箱の中から出してきてくれたのは、ピカピカに磨かれた黒いメリージェーンのローヒール。持った重さで本皮のものだとも分かる。
「ダメですよ。これお高いものばかりですよ?!」
鏡に映った自分の姿に、結花先生を見る。
茜音先生から頂いたものだけでも今朝から大変身だったのに、それをさらに上に行く。完全に身分違いのお嬢さま姿だ。いくらまだ高校生で、家のこともあって手に取ることを避けてきた私でも分かる。
この3点の上から下まで、お店で正規に買っていれば私の稼ぎ程度ではとても手が出せない。
「花菜ちゃん、いいの。ほんとよく似合うわ。女の子は髪形やお洋服を変えるだけでも、憧れている素敵な自分になれるのよ」
「結花先生……」
「それにね、これは私から花菜ちゃんへの応援と幸せのおすそ分け。頑張って欲しいからね」
結花先生は私をそっと抱きしめてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます