18章 MVPの後夜祭
64話 生徒たちが主役です
「しかしまぁ、すごいこと考えたんですねぇ。これ誰の発案ですか?」
夏休みが終わって、最初の部活ミーティングはかつてないほどの盛り上がりを見せた。
先の発言は部長の岡本のものだ。
この日だけは、放課後の図書室を貸し切りにし、普段は出てこないメンバーにも各教室の担任の先生を通じて召集をかけ、文化祭の展示についての概略説明をした。全員が参加できるようなものにしたいと。
「これは松本さんの案です。これなら皆さんも楽しんで参加できるでしょう?」
怪談屋敷というあの時の案は、異様な高揚感を持って好評に受け入れられた。普段物語を書かないメンバーもアイディアを岡本、松本、五十嵐に渡し、怪談小冊子を作れば文芸部としての体面も保てる。
彼女はあの合宿の翌日から、夏休みの間に校内を回り、あちこちにある品物を見ながら集められそうなものを見つけ、そこからインスパイアした内容で怪談話のネタをいくつも作っていった。それに乗ってもらってもいい。
その作業には国語準備室を使ってもらった。
ここならパソコンも自由に使うことができるので、生徒会や学校に提出する企画書などの書類だけでなくパンフレットやポスターの原案もその場で造り上げていった。
驚いたのは、あの旅館での発想の直後から、壮大な計画がすでに彼女の頭の中に浮かびあがっていたことだ。
まず、この特別棟には図書室の上に音楽室がある。
そして2年5組には美術部と吹奏楽部の副部長がそれぞれ在籍している。
彼らに協力を頼んでいた。文芸部だけではセットの作り込みに不安がある。音楽室のピアノは重要なアイテムだけど重くて動かせない。
だから図書室と音楽室を暗幕で繋いで一つのアトラクションにしてしまおうというもの。もちろんそこには階段もあるから、よく怪談話で出てくるそのネタもリアルに作り込むことが出来る。
これまでにない壮大な計画に、それは面白そうだと両部活も共同展示に全面協力をしてくれることになった。
『文芸部・吹奏楽部・美術部が共同で面白そうなことをしている』
そんな噂が職員室だけでなく、学校全体の中にも流れ始めた。
この件の会議は俺の部屋でやって貰って構わないということにしていたので、俺は横で耳を傾けていた。
最大の懸念は「本当に階段を借りられるか」問題だったけれど、特別教室棟であることが幸いして「階段幅の半分なら」という前例にない許可も下りた。
「長谷川先生は赴任最初の年から派手に行きますなぁ。さすがお若いだけある」
教頭先生と一緒に文化祭の準備をしている校内を歩いた。
「3年に1回ですから、彼らに自由にやらせてみただけです。僕は何も指示していません」
これだけのスケールに、先に耳打ちしておいた教頭先生や校長先生も快諾してくれた。
同じことは、文芸部だけでなく2年5組のクラス展示も同じように生徒たちの自主性に任せた。
「展示をやるからには自分たちも楽しめるようにしてください」
そんなお題を決めるホームルームの最初に話をした。すると、『童心に返った遊び場を作ろう』というコンセプトが出てきた。
そうやって話に火が付けば早い。
教室をいくつかのパーティションで区切り、そこにホームセンターや駄菓子店などを回って、
教室を大改造せずに済み、グループ分けした生徒たちが各ブースや全体の装飾や衣装にまで工夫を凝らしている。
本来、これだけの大がかりなセットを二つも同時に担当するのは大変なはずだ。
クラス展示だけでなく、文芸部のことも含め教頭先生は言っているのだろう。
「生徒たちが自発的に動いてくれているんです。特に文芸部の共同展示は松本さんが総監督です。僕のアイデアの上を飛び越えていきますから」
「ほぉ」
お世辞や個人的な感情ではなく、事実この部活展示のMVPは誰かと聞かれれば、間違いなく副部長である松本を推薦する。それは部長の岡本だけでなく、他の部員に聞いても異論はないとのことだ。
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