21話 担任に加えて部活顧問も?
文芸部の部室は、図書室のとなりにある司書の倉庫室を使わせてもらっている。
倉庫と言っても元々は教室だったから、灯りや窓だけでなくエアコンもあるし、道具倉庫を兼ねている運動部の部室と違って環境は悪くない。
いつもどおり、職員室で借りた鍵で扉を開けて中に入ると、まずは窓を全開にして風を入れた。
階上の音楽室からは吹奏楽部の音出しが聞こえてくる。これはこれで学校の部活という雰囲気で個人的には好きな音だ。
一口に文芸部員といっても、大きく三つにタイプが分かれる。
夏紀先輩や私みたいに実際に作品を書いているグループは、実は一番少数派だ。次に作品を読むのが好きなグループ。あとは名前だけの幽霊部員グループで、困ったことにこちらの数が一番数が多い。
ただし、それぞれ活動報告を出さなければならないから、3年に一度の文化祭の頃になると、読みグループと幽霊グループは慌て始めるのだけど、それ以外は特に定めていない。
一種の芸術活動だから、そこに強制力を持たせたくないという顧問の先生の方針だ。
そんな緩さもあって、部活には入りたいけれど、きついのは嫌という子たちの受け皿にもなっているから、毎年新入生の呼び込みはしなくても、自然に流れている噂でそれなりの人数が入ってくる。
今日からの入部受付で、私は待ち時間に自分の作品を進めておこうと、原稿用紙を広げておいた。
今構想中の作品は、全面絵本ではなくて短編小説に挿絵を挟んだタイプになりそうで、先に本編を仕上げてしまいたい。
予想どおり、何人かの新入生がやってきて、活動内容などの説明をしたり、入部の手続きをしているうちに、あっという間に放課後の時間は過ぎていった。
日も傾いて、そろそろ終わりだと片づけを始めようと思っていた時だった。
扉が開いて、先生が二人入ってくる。
「おや、今日の当番は岡本さんではありませんでしたか?」
鈴木先生。教科では古典の担当であり、この文芸部の顧問の先生でもある。先の『個人の芸術性の集合体であるから束縛しない』という緩めの行動指針はこの先生が作ってきたものだ。
「先輩は、今日用事が出来てしまったので、私が代わりです。先輩にご用でしたか?」
「いやいや、松本さんでも構いません。ちょっと私の急な話で申し訳ないのですが、この文芸部の顧問が変わることになるので、お知らせしておかねばならないと思いましてね」
「えぇ? そうなんですか?」
そうか。いろいろとまた活動内容とか変えなくちゃならないかも。後任の先生との調整も必要だろうし。
「後任の顧問は、まだ来られたばかりですが、これから長谷川先生にお願いすることになりました」
鈴木先生は、後ろに連れてきていた先生を隣に呼んだ。
「これからよろしくお願いします。松本さん」
「は、はい……お願いします」
私は突然の展開に呆気にとられて、そこに立ち尽くすことしかできなかった。
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