第6話 ランデブーは突然に


「おまえは・・・、陽花ひばなか!?」


「ええ、そーですよ?あなたを助けてあげたスーパーヒロインの陽花です♪」


そう言って光輝の腹に腕を回して張り付いているのは柴咲しばさき 陽花ひばな。この学園の第33期生、光輝の後輩に当たる、一つ下の女の子だ。


「助けてくれたのは嬉しいが陽花・・・、思いっきり当たっているんだが・・・?」


そんな彼女は小柄で可愛いらしい顔立ちをしているがその身体の小ささにそぐわない程、立派な胸囲を誇る。その豊満な彼女の胸元が光輝の胸板に圧迫されて変形していた。それはもう、直視出来ないくらいに。


「それはそうですよ、当ててますもん?」


口元に指を添えて小首を傾げると左右に縛った桃色の髪がふわりと可愛らしく揺れる。だが、そんなことにいちいち動揺する光輝ではない。何しろ光輝には心に決めた女性がいるのだから。例え、目の前の少女がかなり可愛く、男を誑かす凶器を引っ提げていたとしてもだ。


「離れろ陽花。オレはお前に抱き着かれても「こーくん、顔が真っ赤ですよ?」・・・・・・」


「――――それはここまで走ってきたか「あ、心臓もドクドク鳴ってるのが私の胸に伝わってきますね♪」・・・・・・!?」


「・・・・・・・・・オレには心に決めた人が「はいはい、でも身体は正直ですねー?こーくん?」・・・・・・・・・っ!!!」


ついには緊張が限界を超え、身体が震え出した光輝が叫ぶ。


「――――た、頼むからは、はははは、離れろっ!陽花ぁっ!?」


心に決めた女性がいるからといって、女性への耐性が上がるはずもなく平常運行で顔を真っ赤にして狼狽える光輝がそこにいた。そんな光輝に陽花は小悪魔っぽく微笑んでみせる。


「無理に私を引き剥がしたら・・・、悲鳴を上げますよ?いーんですか、こーくん?」


「ぐぐ・・・、ず、ずるいぞ陽花!?」


今、陽花に悲鳴など上げられようものなら光輝はすぐに追っ手に発見されるだろう。それも後輩に乱暴をしたという余罪付きでだ。


「んふふ、このまま私の物になっちゃいましょ?こーくん」


口元に手を当て、上目遣いで囁きながら体重を預けてくる陽花。彼女のクリームの様な甘い香りと密着した身体から伝わる熱が光輝の意識を支配していく。


(ふぁぁぁぁっ!? まずい、これはまずすぎるっ!? ど、どうにか・・・、何かないかっ!?)


沸騰しそうな思考回路で光輝は必死に薄暗い空き教室に助けを求めるように目を凝らし、ふとある事に気付いた。


「・・・・・・陽花、??」


その疑問は日頃から学業に勤しむ光輝だからこその言葉だった。この学校、魔法学園というだけあり、教材という名目で様々な物を仕入れている。魔法生物、魔植物、魔道具等、それらは多岐に渡る。


―――――問題はここからだ。研究の為、仕入れた教材の中には当然、魔法世界というだけあってヤバい物も存在する。ではヤバすぎて授業などには使えず、お蔵入りした物は一体どうなるのだろうか。


「え?空き教室ですよ?どうしたんですかこーくん?」


不思議そうに小首を傾げる陽花とは対照的に光輝はと言えばうっすらと冷や汗をかいてすらいた。


「だからどの先生の持ち教室が空いていたんだ・・・?」


「え?そんなの分かるわけないじゃないですかー。たまたま空いてただけなんですから」


その瞬間、光輝は自分の嫌な予感が的中して目眩を覚えた。自己都合で良く授業を休む薬学教師。そして無用心に良く閉め忘れる彼の研究材料が収められた空き教室。―――それはこの学園では割と広く知られた事実で教師や先輩達は口を揃えてこう言う。


「あの先生が閉め忘れた教室には絶対に入らないように。・・・マジで後悔するぞ?」


土のつんとする湿っぽい匂い。植物独特の青臭さ。そして極めつけは薄暗闇の中、何かがザワザワと動くのが光輝の眼に映った事だ。


(ああ、間違いない・・・。この教室はエリトン先生の・・・)


諦めにも似た気持ちで光輝はそれを見ていた。普通なら危険なので入らない空き教室。だが誰もが知っているそうした共通認識を余裕で外してくるド天然もまた、この学園にはいるのだ。


「なあ陽花・・・?お前、エリトン先生の開けた教室には危ないから入るなって聞いた事はあるか?」


「え?なんですかこーくん、そんなの誰だって知ってますよー。私の事バカにしてるんですか?」


そう、目の前でそんな台詞をさらりと言う残念な美少女のように。


(ああ、これならボコられてもいいから土下座しておけば良かった・・・)


後悔先に立たず。日本のことわざというのは

異世界においても役立つのだなあ、と実感した光輝であった・・・。







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