第4話 才賀光輝という男


―――突然だが、才賀光輝という男は天才である。


小さい頃からテストで2桁の順位になったことは無く、学校は皆勤、問題行動も一切無し。そんなお手本のような小中学校時代を経て、彼は魔法の才覚があるという事で異世界アストフォリアにある地球人が魔法を学び、将来、異世界で活躍する為の学びの場、ブライト魔法学園に入学する。


入学後も得意の勉強と同じように魔法へも熱を入れ、彼の学年である第32期生の中ではトップ3の魔法の成績を持つ。繰り返そう。彼は天才である・・・。


「ハーッハッハ! どうだ雛森姫日葵!! そろそろオレ様と話したくなってきただろう?そら、これを良く見るんだ?お前はオレ様と話したくなーる、話したくなーる・・・」


現在、彼は糸にぶら下げたこの世界の貨幣、10フォル銅貨を姫日葵の鼻先で左右に揺らしていた。ちなみに魔法薬学の時間なのだが先生は薬の作成中の事故で体調不良につき、自習となっている。


「てか、この学園じゃ心を操作する魔法とか薬もあるのにまさかの催眠術って・・・」

「ホント最近の才賀って頭おかしいよなー」

「あれじゃあ一生、ひまりん振り向かないって・・・」


外野の生徒達が好きにそんなことを言っていたが生徒達の態度は姫日葵が落とした爆弾によって一変する事となる。


「才賀くん、そんなことしても効くわけないでしょ?私に話して欲しいなら素直に謝ったら?下着を見てごめんなさいって?」


「「「ふぁっ!????」」」


その瞬間、クラス中から変な擬音が発せられたが当の本人である光輝は目先の事に精一杯で気付くはずも無い。


「べ、別にオレ様はお前と話したいわけではない! これは・・・そう、催眠術の実用性を高める為のテストの様な物だ!」


「またそんなこと言って・・・。それなら私、今日は話してあげないからねっ?」


「なあ!?そ、それは困る・・・。ん・・・?」


そんな光輝の肩をポンポンと叩く人物がいて光輝は大変、迷惑そうにそちらを見た。隣にいたのは太地だ。


「なぜ席が遠いのにわざわざこっちまで来る?オレは今忙し・・・、ん?」


言葉を言い切らない家に冷めた目の太地が後ろを指差してみせた。くいくいと動かす彼の指につられてそちらに目を向けると光輝の目に映ったのは・・・。


「おい、才賀・・・。さっきのは一体どういう事だ?」

「そんな勝手が許されると思ってんのか!?」

「僕だってまだパンツ見た事無いのにぃぃぃぃ!!」


獰猛に目を輝かす男子生徒の群れ、通称ひまりん親衛隊の面々である。


「い、いや・・・。これはだな・・・」


「「「問答無用! 法律違反だっ! ヤツを捕らえて縛り上げるぞ!!」」」


「「「おうっ!!」」」


もはや聞く耳持たない、といった様子の男子生徒達が立ち上がり、にじり寄ってくる。


「ま、待てみんな・・・。今は授業中だぞ?なあ、太地・・・?」


最後の希望を求めて光輝は唯一の親友の顔を見る。女を一撃で落とす彼の甘いマスクから出た言葉は。


「がんばれ光輝♪」


「この裏切り者があぁぁぁぁーーーっっ!!?」


叫び、光輝は教室を全速力で飛び出していった。後に残された姫日葵がきょとんとした顔で首を傾げる。


「な、なんで急に追いかけっこが始まっちゃったの・・・?」


そんな純粋な彼女に太地は優しく諭すように言う。


「ひまりん、世の中には知らなくていい事もある。今はそれで納得してくれないか?」


「んー・・・、よく分かんないけど才賀くん、大丈夫かな?」


「ああ、あいつなら次の時間には間に合うように帰ってくるさ。真面目だからな」


「うん、そうだね。才賀くんだもんね!」


そして彼、才賀光輝の命を懸けた鬼ごっこが幕を開いた。―――念の為にもう一度だけ。彼は天才である・・・。







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