「心中」

「……今から死ぬの…?」


さっきまで彼女と握っていた手は、今は誰とも握っていないはずなのに、今にもしたたり始めるのではないかと言うほど、手汗でびちゃびちゃとしていた。心なしか背中や四肢ししが、鉄筋てっきんが入っている様にぐとなって動かない。僕は人形になったまま彼女の答えを待った。


「ううん、私達は死なないよ? ただ、空になるだけ。私と貴方あなたは、空と一つになるんだよ。」


…全く、理解が出来なかった。ちょっとだけ、僕の物分かりが悪いせいだと思ったけど、そんな訳がなかった。__僕が平々凡々へいへいぼんぼんと今、そしてこれからを生きていたら「そらになろう」と勧誘されることはこの僕の十数年の人生をけてでも、100%無いと言い切れるから。

改めて、少し後悔をした。彼女の事をよく知らずに一目惚れだけで告白した事と、異性に話しかける事の出来ないほど臆病者おくびょうものであったことに。

少し前の窓側の席で、物憂ものうげに空を見つめていた彼女の横顔が、何度瞬まばたきしても美しすぎていて、あるしゅあやかし地球外生命体ちきゅうがいせいめいたいかと疑うほど衝撃しょうげきを受けた事を思い出す。今の彼女もその時と同じくらい美しいが、あの一目惚れした瞬間しゅんかんとは違い、何かが取りいているよう狂気的きょうきてき雰囲気ふんいきまとっている。くやしくも、僕はその危険なヒトに全てを支配されていた。

最後の理性りせいが、彼女に反論する。 


「でもさ、それって結局、死ぬんじゃ…」


「…君も、パパとママと、同じ事、言うんだね。」





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