「疑問」

彼女に手を引かれながら、まず僕の人生を変える事となった愛の告白の現場である屋上おくじょうを飛び出した。うるさい心臓の拍動はくどうに混じって昼休みの終わりを告げるチャイムがかすかかに聞こえた気がしたが、この場にそれの真偽しんぎを確かめようとする人間がいないことは分かりきっていたから、聞こえないふりをして階段をくだった。あっという間に一階に着いて、彼女はそのまま、次は下駄箱げたばこに向かって、更に速度を上げた。

ここまでで彼女との会話は一つも無かった。だが、僕と彼女は今一つとなり、青春を謳歌おうかしているのだと、この繋がれた手が、そう言っている様に思えた。だから僕らは走り続けていられるのだと、信じて疑わなかった。

下駄箱げたばこまで走った所で、彼女は立ち止まった。今まで繋いでいた手を無情むじょうにも離して、僕の方へ振り向いた。


「ねぇ、この世界の中で一番綺麗な青空は何処どこだと思う?」


その質問に僕はきゅうした。いつでもどこでも、青空なんてただ雲が浮かんでるだけでそれ以外は変わらないと思っていたから。雲に名前があるのは知ってるけど、空だけに名前があるとは思っていなくて、あってもせいぜい「青空」とか「夕焼け」、あと「夜空」みたいな、そんなもんだろうなと思っていたから。


「どっ、どこだろう…」


そんなもの自分には答えられない、と焦って、今まで浮かれていた心がすーっと冷めていくのが分かった。それと同時に、告白した時に言われた言葉を思い出して冷静になってしまってが引いていく。そこで一つ、考えた自分でも身体中からだじゅうの毛が逆立さかだような、疑問が浮かんだ。


「あ、あのさ、僕達って」


「ん、なに?」


彼女は不思議そうな顔をして僕の返答を待っている。


「……今から死ぬの…?」

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