エピローグ

「それで、どうなったんですか只野サン?」

 場所はUGN"吊られた男"隊支部の会議室。問いただすのは同隊オペレーターの須磨。只野本人に報告書を書かせると「悪は潰えた」としか書かないためこうして須磨がインタビューしつつ報告書をまとめるのが恒例となっている。

「結局にゃんこはあの……眼鏡の説得でUGNに所属する事になった。今では立派なエージェントだ。」

 中立の説得によりミケマルはUGNに加入、そう画面に打ち込みながら須磨は正面へと視線を戻す。しかし須磨には引っかかることがある。

「さっき、ミケマルを前に『悪を喰らう』って宣言してた割によく許しましたね。」

 そう、相手は只野正義正義マンである。話が通じた程度で悪認定が解除されるとは思えない。

「それがな、話を聞いてみると、元々あの地のFHのセルが野良猫を捕まえてはレネゲイドの実験に使っていたらしい。その実験の最中で覚醒したのがあのにゃんこで、それ以来野良猫たちを守るために人間と戦ってきたらしい。つまり!悲劇の被害者だったのだ!」

 須磨が納得のいったような顔で聞き取った話と別画面の報告書を比べる。その理屈であれば只野が拳を収めるのも理解できる。T支部との報告書との齟齬は中立という青年のアドリブだろう。

「じゃあ今回は"悪"とは出会わずに終わったんですね。」

 話もそろそろ終わりと思われるタイミングでまとめに入る。その手は文書作成ソフトの上書き保存ボタンを押し、閉じるボタンへと動いていく。

「いや、その後にゃんこの情報を元に”遊戯会”セル本部へ行って悪を滅ぼしてきた。だがこれは日常業務の範囲内なので特に報告の必要はないだろう。向こうの支部長殿にも『その日の報告書は不要だ……というかその話はやめてくれ』と言われておるしな。では日課のパトロールがあるので失礼する!」

 須磨の手が止まる。パソコン画面ではなく脳内に砂時計が出現する。あまりの衝撃発言に固まっている間に会話の相手は去ってしまう。

「一体なんなのあの人……」

 こうして正義の伝説がまた一つ闇へと消えていったのであった。

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[WoC]正義が征く かおりな @kaorina

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