第34話 幸薄少年も実は心配だったりする

 俗に言うハーレムには、どうしても俺には忌避感があった。自分勝手、報われない子がかわいそう、そういった思いがあったから。


「波留も大変だな」


「……どうした?」


「別に、なんでもない」


 実際に自分の友人の周りにそれがあるのを見ても、思っていたような感情は沸き上がってこなかったけれど。


 周りを顧みないことに関する嫌悪感を友人が感じさせなかったこと、創作物の中でのハーレムに感じていた忌避感を打ち壊すような友人の人格のよさが原因だろうけれど。今までの自分と比べて、盛大な手のひら返しに一人で苦笑する。


 俺自身には好きな人がいるから、彼女らの視線がすべて波留に向いていることに悔しさを感じたりはしないのだけれど、少しの寂しさはあった。基本的に優しい女子たちが俺にも気を遣ってくれているのはひしひしと伝わってくるんだけどね。


「……波留は化粧落とさないの?」


「めんどくさいし、いいかなって思ってる。みんなが返ってから落とす」


「今日はイケメン顔見れねえのかー」


「………そんな見たいか」


「一日のラッキーアイテム的な認識をしてる」


「それはおかしい」


 学校で菅を見せることは絶対に泣く、更には波留の機嫌も関係してくるから、あの顔を見れるのは運がいい時だけだったりする。それを見れるか見れないかをその日や次の日の幸運の指標にしていたのだ。


 そうして俺は結構波留の顔に頓着しているのだけれど、女子たちは案外そうではない。波留がどちらの顔で居たときも変わらず『好きで好きでたまらない』という顔をしているから。顔がいい時は直視しにくいなー、程度だろう。


 まあ、人にとって容姿も大事な要素だ。………大里も言っていたことを認めたいわけではないが。


 だからこそ、気にしてしまうのは仕方がないという気もする。確かに、波留の口から聞いたような人たち、顔にしか目がいかず中身も何も見ていないような人たちは害悪でしかないとは思う。


 でも、波留が徹底しているほどそこに頓着しなくてもいいのではないかと思ってしまう。大事なことは容姿を見ているのかどうかではなく、波留自身を見てくれるかどうかなのではないかと。


 波留は、きっと俺よりもたくさんのことを考えている。俺は頭が悪いから大切な何かを見落としているかもしれない。もしかしたら、波留の辛かった過去の存在をすべて無視した話をしたかもしれない。そうだとしたら、ただただ反省するしかないのだけれど。


 もう少し、波留を見つめている女子ひとたちを縛り付けなくてもいいんじゃないかと思うのだ。


 本人はそんなつもりはないんだろうけど、彼が言っている言葉に振り回されるかもしれない人がいるのだということを、きちんと理解してほしい。


「……どうした?」


「いんや、別に」


 みんながいるこの場所でまさか言葉に出せるわけがないけれど、いつかはひざを突き合わせて話さないといけないのかなと思ったりする。


 俺がこんなことを考えるのは、波留にとっては迷惑だろうか?調子に乗り過ぎただろうか?


 いつか心にかかっていた重圧を取り去ってくれた波留のために、できることであればなんでもしたかった。俺にはできることは少ないけれど、相談に乗ることやアドバイスをすることは一人ではできないから。


 せめて自分がもう少し器用であればと、少し途方に暮れた。


「……大丈夫か?さっきから視線があらぬ方向に言ってるけど」


「へーきへーき、ちょっと考えごとしてただけ」


「……恋愛か?」


「あたらずとも遠からずって感じ」


 波留は本当に優しい。


 それに、優しいだけじゃなくていろいろな面を持っている。人間として、接していてこれ以上に楽しい性格を持つ人はなかなかいないのではないだろうか。


 俺はハーレムに入るつもりはさらさらないけれど、彼女らとは違う方向で、彼に惚れていると言っても過言ではないのかもしれなかった。友人として、これ以上の人はいない。少なくとも今の俺にとっては。


 いつもはどちらかと言えば静かなのに、春乃夜こと波留が絡むとおかしくなる涼香。言葉遣いも丁寧で物腰が柔らかく見えるけれど、実は意外と押せ押せで大胆だったりする美波。一番元気があるように見えて、恋愛面では一番の奥手の光瑠。


 それぞれがきっと、それぞれの好きという感情を抱えている。


 誰も悲しまずに済む結末など、あるのだろうか。そんなことないとは、心のどこかで納得してしまっている。それでも、波留であればどうにかしてくれるのではないかという思いもあった。


 光瑠が楽しそうな様子を見て安心している波留を見る。そこの二人の会話に美波が入ってきて、涼香は今きっと春乃夜を見て愛を叫んでいる。


 小さく安堵とも不安とも取れぬ息を吐き出した。

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