第35話 イケメンは動揺する

 ゲーム歴が甚だしく違う人に勝つには、正攻法じゃない何かで攻めるしか手段がない。例えば完全に遠距離に頼った戦い方にしてみたり、あとはアイテムを積極的に取るようにしたり、一つだけのコンボを必死になって覚えたり。


 ゲームで負けるのが悔しくて、試したことがさっきのすべてだった。どれも結果は芳しくなかったが。


「ぜってぇ、負けねえ」


 さっき『俺が勝ったら勉強な』と言ったとたんにこの様子である。元は、手を抜いていたとまではいかなくても手加減はしてくれていたようだから。


 ベッドに寄り掛かって憮然としていると、頭を細くて柔らかい指に撫でられた。顔を上げると、すぐ目の前に美波の顔があって思わず勢いよく身を引く。「そんなに必死によけなくてもいいじゃないですか」と先ほどの俺と同様に憮然とした美波に言われるけれど、仕方がない。


 美波は俺のベッドに寝転がっていた。ゲームしている最中に、早々に脱落した美波から『ベッド借りてもいいか』という言葉は言われた気がしなくもない。


 が、ここまで危ない状況になっているとまでは思っていなかった。


「………ふふ、波留さんのお布団良い匂いですね」


 しっかりと嬉しそうにはにかみながら、俺の普段使いの布団に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。普段使いしているのだから決して綺麗というわけではないだろうに。


「別にいいけど、もう少し自重ってものを──……」


「僕もー!!」


 俺の言葉を遮って、美波が小さくなって寝転がっているベッドの上に、光瑠も飛び込んでいった。そのまま美波のすぐ横に転がっていき、同じように俺の布団に顔を埋めながら足をぱたぱたとさせる。


 自分の布団に誰かが寝転がっているというのは、嫌だというよりも恥ずかしい。それが女子ともなればなおさらに。


「……迷惑ですか?」


「…………迷惑じゃない」


 そんなに寂しそうな顔で問われてしまえば、否定することなんてできない。絞り出して結局許容してしまった俺を見て明人が楽しそうに笑った。


 光瑠のぱたぱたと動かされていた足はだんだんとゆっくりになっていき、やがては止まった。顔を上げることはないが、もしかしたら遊び疲れて眠ってしまったのかもしれない。


 と思っていたら、光瑠が急に顔を上げたから視線が真直ぐぶつかりあった。幸せそうな顔と共に大きく伸びをする。


「私たちはこちらを楽しんでいますので、ゲームはお二方でしてもらって構わないですよ」


「ありがとう。とりあえず早めに終わらせられるようにする」


「いんや、絶対に終わらせないから」


「私は後ろから波留さんの髪をいじってますね」


「おう」


 明人と俺の二人だけでゲームをするのだからキャラクター選択などは手早く済む。二人だけで遊ぶことも少なくはなかったので、その時のように手早く。


 ゲームが始まって、さっきと同じように美波の優しく柔らかい手が俺の髪の毛をいじり始める。…………ん?なんで美波はこんなにも平然と俺の髪を毛いじってる?


 時折首筋にまで手が伸びてきてちょっとくすぐったいし、美波の手が妙にすべすべしてて肌にじかに触れられて変な感じがするんだが。


 いやいやいや、おかしいだろ。


 しかしながら、それに惑わされてゲームに集中できないのもなんとなく癪だし、ということで気にしないように必死にプレイしているのだが。思わず肩を跳ね上げさせてしまったり。


「……ふふ、ふふふ」


 そのたびに必死に抑えて吐息のようになった楽しそうな笑い声が首筋にかかり、くすぐったくて仕方がなかった。


「ちょ……!」


 触ってくる手がもう一つ増えた。こちらは意外にもびくびくと遠慮がちで、それでも付随してくる笑い声は美波よりも抑えられていない。


「ほら、波留君頑張って」


「………本気で応援してるんだったら手を離してほしい」


「今ちょっと忙しいから無理だね」


 結局頭を撫でまわされながら必死にプレイする羽目になった。そんな状態の俺が明人に勝てるわけがなく、結果は惨敗だったが。


 明人は相当勉強したくなかったようで、一試合終わった瞬間に深い安堵のため息をついていた。


「………そんなに嫌なら今日ぐらいは勉強しなくてもいいかもな」


「マジで!?」


「今日だけ、な。今日は涼香もいないし」


 俺がそういった途端に明人は、『やったぜ』と叫びながらガッツポーズをした。別に俺が親というわけでもないので強要する必要も何もないのだが、そういうことを考えたうえでも明人の勉強量は酷いものだから………。『自分一人だけだと勉強する気にならないから発破をかけてほしい』と言われたし。


 そういう部分で心配になることはたまにあるのだが。友人との距離感の話では。


 気の置けないとは言いつつも、それが行き過ぎて関係が崩れるなんて怖すぎる。俺は、今のみんなと過ごす時間が楽しくて仕方がないから。


「………んで、いつになったら俺の頭は釈放されるんだ」


「無期懲役ですね。永遠に手放しませんから」


 そう言う美波に頭を後ろから抱きしめられた。


 頭を抱きしめるなど良くないと思う。というか抱きしめるなんて行為は男女間では軽々しく行うようなものでは無い。いろいろとまずいことになると思うし、体が密着するというのはたがいにとって得ではないと思うから。


 …………要するに、触れてはいけないものが後頭部に当たっている。


「皆川さん。ちょっと、それはまずいのではないかと」


「………皆川さん?名前呼びはしてくれなくなってしまったのですか……?」


「いやそれは言葉の綾」


 すぐそばから美波の声がする。少し残念そうだったり、急にぱあっと明るい声音になったり。そういうすべての感情の起伏が耳元で空気を揺らしていて、今まで経験のしたことのない感情に襲われる。


 今までは、過度な接触は嫌であったはずなのに。


 何かがおかしい。距離感が近いはずなのに、美波ならばいいかなと思ってしまっている自分がいる。それは、光瑠にも涼香にも同じなのだろうか。


 怖い、でもない。嫌悪感、でもない。


 妙に胸の奥が熱くて。



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とある方のWEB小説を読ませていただいていたんですが、『ほかの作者様の評価も積極的にするようにしましょう!!』とおっしゃっていて非常に感銘を受けました。



わたくし「俺はいいから、他の奴を救ってきな作者様の作品に高評価つけてきな(キラーン☆)」



……あれ、私がやるとギャグにしかなりませんね。なぜでしょう。

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