第15話 元淡白女子は恋焦がれる
あたしはあんまり恋愛とかに興味がないほうだった。小さい頃は今よりも男勝りな性格で男子とは友人として仲がいいことが多かったし、女子たちのきゃぴきゃぴした恋愛話についていけないことも多かった。
だから可愛いことに興味を持ち始めたとはいえ、高校でも恋愛沙汰は何もないんだと思っていた。そのはずなのに。
───なんだろう、この胸の奥にわだかまって消えない甘ったるさは。
「
家に帰った途端妹の
「まさか、恋愛?」
「……そう、かも」
「えー、涼姉には絶対春はこないと思ってたのに……。なんか嬉しいね。応援してるから頑張ってね」
普段だったら嬉しい妹の励ましの言葉にも反応することが出来ずに、頭の中では眞家君のことが居座っている。あの涼し気な笑顔に、はしゃぐ声音。普段は見せてくれないような子供らしい一面。
………新しい一面を知っただけの筈なのに。
顔だけで靡くとか、そういう軽い人間だとは思われたくない。きちんと眞家君の好きなところをたくさん見つけ出したい、と思っていたのだけれど。
運動ができるところ、話していて楽しいところ、ボカロ趣味が意外に合うところ、かっこいいところ、運動ができるところ、───優しいところ。
好きなところがあり過ぎて辛い。もともとはちょっと気になっている程度の淡い恋だったのに。こんなにも簡単に恋に落ちるなんて聞いてない。こんなに胸が苦しいなんて知らない。ぎゅう──………って胸の奥を締め付けられるような感覚が抜け落ちてくれない。
「今日お母さん返ってくるの遅いって」
「わかった。じゃあ今日はあたしが夕飯作るよ。昨日は夏香が作ってくれたから」
「……いや、今の涼姉に料理任せると何かミスする気がするから今日は私がやるよ。絶対調味料違うの入れたりするでしょ」
こうして会話をしているときでさえも上の空なのだ。自分で料理をするなどとなったらまともにできるか定かではない。そう考えると、夏香にやってもらった方がいいのかもしれなかった。
「……そんなことない、って言いたいけど確かに。明日はあたしがやる」
「りょーかい。とりあえず恋愛の悩みは一人で抱え込みすぎないように。そうすると辛いから」
「うん。ありがとう」
これではどちらが年上だか分からないけれど、恋愛の面では夏香のほうが明らかに先輩だ。あたしの性格をちゃんと分かってくれるから、夏香の言うことは信用できる。
はやる気持ちをごまかすこともできずに階段を駆け上がった。
父親はいない。母親はシングルマザーで三人家族を賄うために遅くまで働いている。お母さんに迷惑をかけないためにも私たちが喧嘩することなんてほとんどないし、姉妹の仲はいいほうだと思っている。お母さんはいつも大変だからと、我慢することも多かった。だからこそ一人で抱え込んでしまうような性格になってしまったし、それは妹も同じだった。
こういう私たちの我慢をお母さんが心苦しく思っているのは知っている。でも今の私にできることは幸せだということを見せることだけだ。
それも、私が恋愛してるって知ったら、ちゃんと友達がいるって言ったら喜んでくれるんだろうか。………みんなをこの家に呼ぶのもいいかもしれない。
がちゃりと自分の部屋の扉を開ける。女子の部屋にしては簡素な部屋なのだと思う。自分の部屋の中で過ごすことはあんまりないし、ものがあるとすればCDぐらいだ。あとはお母さんに無理を言って買ってもらったパソコンが一つ。
パソコンを開いて、動画配信サイトを開く。その通知ボタンを押して──……
「え、あえ、え……!!」
私が数年前から押している歌い手さん───
私が眞家君と仲良くなるきっかけだった。眞家君に話しかけようと思ったのは春乃夜さんとどことなく雰囲気が似ていたからだ。名前もハルが同じだし、顔の雰囲気も。
動画を開くと、最近気になって聞いていた歌だった。全自動PというボカロPの方が作っている曲だ。私の好きな曲ばかり歌っていて私のこと好きなんじゃないかと疑いたくなる。
「うぁぁー……」
情けない声を上げてしまいながら、画面の前の椅子に座って姿勢を正す。
好きな人が好きな歌を歌っている。これ以上に幸せなことがあるだろうか。今ばかりは眞家君のことが頭から離れてくれる。考えることが嫌なほど嫌いというわけではないのだが、どうも気疲れしてしまう部分があるから。
春乃夜さんに感じるこの感情と、眞家君に感じている感情。どっちも焦がれるという部分ではほとんど同じだけれど、春乃夜さんへの感情は羨望交じりで、眞家君へは純粋にもっと仲良くなりたいという焦がれる感情だ。
幸せで仕方がない。
胸の奥でたまりにたまった感情を吐き出すように、息を吐き出した。
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伏見さんの呼び方が「淡白女子」ってなってるんですが、もっと他にいい呼び方ないですかね?明らかに淡白じゃないんですよね………。困った。
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