第5話 雰囲気イケメンの嫉妬
「後でクラブチーム見学行かせてもらいますね」と皆川さんにいい笑顔で言われた。別に嫌ではなかったので困惑しつつも了承すると安堵の表情を見せられた。その日はそれきりあまり彼女らと話すことはあまりなかったが、自分としては充実した一日だったと思っている。
最後の授業と清掃と帰りのショートホームルームをそこそこに真面目に終えた。そして教室から外に足を踏み出して。
「おい、お前」
………とまあ、なんとなく察してはいたが。
教室の外で俺の手を掴んで強引に引っ張っていくのは大里くんとほかの男子数人だった。さすがに今日の今日であそこまで皆川さんや北島さんと話すのは目立ち過ぎたらしい。
ちらりと周りを取り囲むような男子数人に視線をやると、そのうちの一人が申し訳なさそうに、こちらを心配するような視線を返してきた。彼らの中にも常識的な存在はいるらしい。ここまで大里くんをトップに組織が確立してしまうと逆らうのも難しいだろうから、そうやって俺のことを
それにしても、ここまで大里くんが怒るようなことがあったのだろうか。北島さんも含めて彼女らは人気者みたいだし、俺みたいな日陰者が彼女らと釣り合わないと指導でもしたいのかもしれない。自分で目立たないようにしていたはずなのにこうして責め立てられそうになると納得のいかないものがあった。
連れていかれたのは校舎の陰になる少し薄暗い場所だった。何をするにおいても隠しやすそうな場所だ。大里くんを残してほかの男子が戻っていく。大里くんは自分一人で何をするつもりなのだろうか。
「……お前、名前は」
「眞家波留です。………よろしく」
俺の舐め腐った態度が気に障ったのか、大里くんの額に青筋が走る。こっちこそ腹を立ててしまいたい気分なのだが。存在を消していたとはいえ、一か月間同じクラスで活動していた俺の名前をかけらも覚えていないというのはいかがなものだろうか。
「で、お前は美波に近づいて何がしたいんだ?」
「……大里くんには関係ないのでは?」
「は?あいつは俺の女だぞ?」
なるほど、こういうところが嫌われるゆえんなのだろう。彼女からは相当嫌われているのに、それを分かってか分からずか「俺の女」と呼ぶ。そもそもクラスメイトのことを俺の女と呼ぶ時点で何を考えているのか理解できないし気が知れないのだが、相手の感情を考えることすらできないようだ。
勘違い甚だしいのか、それとも強引なだけか。それはわかりかねるが、どちらにせよ聞いていて気分がいいものでは無かった。
「皆川さんには嫌われているようだけど」
「………は?俺にしっぽ振ってるの間違いだろ?」
思わず疑問を投げかけてしまったが、帰ってきたのは本気の困惑だった。
どちらかというと勘違い甚だしいようだ。救えないというか、これ以上ない馬鹿というか。どこをどう勘違いしたらそうなるのだろうか。
「だいたい俺の前でだけ態度が違うじゃねえか。期待してるってことだろ。っていうか俺みたいなイケメンに迫られて嫌がる女なんていねえし。北島に声かけたときだって満面の笑み浮かべながら媚び売ってきたから、な。………ったく、顔が良すぎるのも困りもんだな」
「イケメン………?」
彼は、なんというか。容姿が飛びぬけて整っているわけではない。周りにどう持ち上げられてここまでのうぬぼれになったのか分からないが、皆川さんよりも、下手したしなくても北島さんよりも醜い。性格も含めるとより一層に。
今現在俺がイラついているので酷評になってしまっているのを加味すると、少しは整っている方ではあるが
「……で、俺は何でこんなところに呼び出されてるんだ?」
「ああ、そうだ。忘れてたな。………ちょっと、分からせてやらないと、と思ってなぁッ!!」
壁に背中を押し付けられ、そのままの勢いで腹を殴られる。思わず声が漏れ、誤魔化すように両足に力を入れた。まさ突然殴られるなどとは思わなかった。
久しく殴られる経験はしていなかったが、殴られるとやはり痛いものだ。
しかし、やはりと言うべきか、以前指導を受けたことがある空手の指導者の拳の方が重かったし痛かった。
それにしても、もう少し暴力へのためらいを見せてくれないだろうか。一昔前のヤンキーでもあるまいし、俺が教員に告げ口してしまえば高校側でも問題になって色々と面倒だろうに。
「お前の辛気臭い顔見てるとイラつく」だの「お前みたいな価値のない人間がいるからこの世の中が腐る」だの、今どきにどんな人間も抱えていないだろうな選民思想的な発言をまき散らしながら暴力を振るわれ続ける。
俺が文句を言わないのを言いことに、拳はだんだんと顔にまで飛んでくるようになった。さすがに跡が残るので気を付けてほしい。中学生のころに格闘技練習翌日の腫れた俺の顔を見るみんなの視線は少し痛かったから。
やり返してしまえば同じ側に落ちるだけなので、なるべくそういうことはしたくない。今回被害を受けているのは俺だけなのだし、無駄に反撃する必要もないだろう。
そういう判断故に自分は手を出さなかったのだが、だんだんとエスカレートする暴力を受け続けるのにも苛立ってきた。
最終的に、わざとらしく
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