第4話 ボーイッシュが嬉しそう
昼食をつつがなく食べ終え、あと五分程度休み時間が残っていたためまた本を取り出す。
北島さんは前の席で皆川さんと一緒に昼食を食べていた。前はこうして二人が皆川さんの席で昼食を食べているのは見たことがなかったが、俺と仲良くなったからそこで食べるのもいいだろうと思ったと言われた。少し気恥ずかしくも嬉しくもある。
そうして本を読み進めようとしたのだが、先ほどまで談笑していた北島さんが後ろを振り返ってきた。
「さすが、男子は食べるの早いね。眞家だからあんまり意識してなかったけど、やっぱ男子だ………。なにか運動してるの?」
もぐもぐと、コンビニで買ったらしいサンドイッチを頬張りながら北島さんに問われる。口元からレタスが零れたのを見て皆川さんが「ほら、ちゃんと食べてください」と諫めた。
「一応バレーボールのクラブチームに」
「へえ、クラブチームですか。波留さんはいつも本を読んでいるので、正直あまり運動できる印象ありませんでした」
それも仕方ないことだ。親の遺伝で細身なことも相まって俺が運動するなんて想像もしないだろうから。もう少しがっしりとした体形を目指したいが、どう頑張っても筋肉はそこそこにしか付かなかった。
「波留さんが運動しているところ見てみたいですね」
「そうか……?見ても大して面白くないと思うんだが」
そもそも体育で何度か動いているのは見ているだろうに。無駄に目立つのはやめたくてわざわざ全力でやったりはしなかったが。
「いやー、たぶん面白いと思うよ?僕は眞家が運動してるところ見たいなー」
「俺が運動してたら面白いってのもちょっと考えものだけどな」
思わずぼやくと北島さんが楽しそうに笑う。憮然とした視線を向けても彼女はより一層笑みを深めるだけだった。皆川さんも北島さんと一緒になって笑っている。
納得がいかないまま本に視線を落とした。
「どこまで読んだの?」
本を開いた段階で北嶋さんから疑問が飛んできたので、顔をちらりと上げてから答える。北島さんはもう昼食を食べ終わったようで、食事で出たプラスチックのごみを一つの袋にまとめてからペットボトルのふたを開けていた。
「……まだ途中。一番いいところだから長く楽しもうと思って感傷に浸りつつ読んでる」
「そうやって不思議な楽しみ方するのも眞家っぽいよね」
俺は彼女の中ではどんな不思議キャラで認識されているのだろうか。確かに教室の隅で一人本に没頭しているような人は変人には間違いないのだが。
「……俺は北島が言う程不思議ではない、はず。自分のことはどちらかというとまともな人間だと思っているんだが」
「いーや、ミナと話しているときに鼻の下を伸ばさないだけヤバい人間だね」
鼻を伸ばすなど、そんな間抜けな顔は晒したくない。
急に名前が出てきた皆川さんが諫めるような視線を北島さんに向けたが、彼女は悪気がなさそうな様子でにこやかな笑みを浮かべていた。皆川さんも毒気が抜かれたようで「しょうがないですね」とでも言いたげに表情を緩める。
二人とも本当に仲がいいのだろう。言葉を交わさないときほど彼女らの仲の良さが現れているような気がした。
「で、眞家はやばい奴だってことでいいかな?」
「そうですね」
「おいお前ら……?」
彼女らと接しているのが楽しくなってきてしまって、いつぞやから長らく使っていないような言葉になってしまった。友人としてふざけられているような気がして楽しい。小さいころから仲が良くなると言えば自分の容姿だけを見てそう言ってくる人たちが多かったから。
「でも私は嬉しいですよ?波留さんは私に色目を使わずに接してくれる数少ない男の方ですので。普段は………すこし酷いことが多いですから」
分かる。凄く分かる。
全力で共感を示したい意思をどうにか押さえつけながら曖昧に頷いておいた。
やはり皆川さんも俺と同じようなことで苦しんでいるようだ。それでも顔を隠そうと思ったりしないのは、彼女なりのこだわりがあるのだろうか。自分にはそのままでいられるほどの強さがなかったからか、彼女が少し眩しい。
「……皆川さんがかわいくないわけではないんだけどな。身内に美形が多いから」
「波留さんに言われる『かわいい』は嫌でないですね。不思議です」
さすがは皆川さんで少し褒められた程度では頬を染めるなんてこともない。ほんの僅か嬉しそうに頬を緩ませるだけで平然と話しをつづけた。
「ねえ僕はー?」
「光瑠さんはとっても愛らしくてかわいいですよ?」
「ミナからはたくさん聞いてるけど、仲がいいからひいき目で見てる可能性もあるじゃん?ほかの人の意見もと思ったんだけど」
「さすがに皆川さんに敵うとは言えないけど北島さんもかわいい、と思う。個人の感想だけど。……それに、北島さんの魅力はどちらかというと明るい性格の方では?」
「ありがとー。嬉しいな」
北島さんは皆川さんほど慣れてないようで、にまにまと嬉しそうな顔になった。こういう仕草すべてがわざとらしくなく、見ていて微笑ましくなるような明るい性格が彼女の魅力なのだろう。
自分は暗い性格になってしまったので少し羨ましい。北島さんも皆川さんも
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