第4話
橘信司は悩んでいた。
自分が強くならないと、猫様達を守れない。
この異世界では強い戦士が山ほどいる。
しかし、その戦士達がこの店に来て、ルールを守らなければどうする?
猫様達のために、つまみ出さなくてはいけない。
つまり、それだけの力をつけなくてはこの店<猫様が主役>をやる資格が無いと、信司は考えたのだ。
信司はとりあえず、腹筋やダンベルで力をつけることにした。
そして、猫様達の外出を見守った後、ランニングをすることにした。
そんな信司の姿を一人見守る女性がいた。
その名前はアリサと言った。
中級魔術師だった。
アリサはトレーニング中の信司に一目惚れしたのだった。
東洋の切れ長な目、筋の通った鼻、信司は整った顔をしていた。
しかし、問題が一つあった。
アリサは猫が嫌いだったのだ。
それでも、アリサは<猫様が主役>に、来店した。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
信司の笑顔に、アリサはクラクラとした。
信司が近づいて入店時間を書いた紙をアリサの首に提げる。
アリサは台所の近くの席に座ると、紅茶とパンケーキのセットを頼んだ。
アリサが台所を覗くと、信司の大きな手が器用にパンケーキを焼いている。
そして、パンケーキの上にはやっぱりヘタウマな絵が添えられる。
「おまたせしました、にゃんにゃんの似顔絵付きです」
そう言って、信司は紅茶とパンケーキをアリサの机に置いた。
そのとき、にゃんにゃんがパンケーキに手を伸ばした。
「駄目!!」
アリサは素早くパンケーキの皿を取り上げると、にゃんにゃんを睨み付けた。
「素晴らしい! ありがとうございます」
信司はアリサを褒めた。アリサは訳が分からなかった。
「猫様の体を心配して叱って下さってありがとうございます」
「いいえ」
アリサは、パンケーキを机の上に置いて食べ始めた。
猫の視線を感じるたびに目をそらせる。
それなのに、猫たちはアリサに近づいて、膝に乗ったり背中に乗ったり、やりたい放題だった。
「さすが、猫様の気持ちが分かってらっしゃる」
信司の笑顔は嬉しかったが、嫌いな猫にまとわりつかれてアリサはウンザリしていた。
「はあ・・・・・・」
猫のおもちゃが手に当たった。毛玉で出来たボールの中に鈴が入っていた。
アリサがそれをなげると、猫たちはチリンチリンと鳴るボールを追いかけていった。
「猫は、猫嫌いの人が好きって本当なのね・・・・・・」
アリサがそう呟くと、一瞬信司の顔が固まった。
信じられないものを見つけた様な顔で、アリサのことを見ている。
「猫様の魅力が分からない人間なんているのですか?」
アリサはごまかすように笑って言った。
「いいえ、友人の話です」
信司の顔に微笑みが戻った。
「それは、ご友人は人生を損してらっしゃいますね」
「そうですか?」
「はい、猫様がいるだけで幸せな生活です。そんな素敵な世界が分からないなんて絶対悲しいです!」
信司の猫好きを目の当たりにして、アリサは少し心が冷めるのを感じた。
今日はアリサの他には9人のお客様がきた。
信司は猫達の疲れを案じて、また早めにお店を閉めた。
「ねえ、ずいぶん早くに店を閉めちまうけど経営は大丈夫かい?」
飲み屋の女将にそう言われたが、信司は力強く頷いた。
「私が贅沢をしなければ十分猫様達は暮らせます」
「そうかい?」
信司の言葉を女将は半信半疑で聞いていた。
「それに家賃もきちんと納められるくらいには稼いでおります」
三日間の営業記録を女将に見せると、女将は安心して笑った。
「あんまり猫に夢中になると、女が寄ってこないよ?」
「猫様達がいれば、私は幸せなんです」
信司は猫たちをお風呂に入れると、丁寧にドライヤーをかけた。
猫たちは嫌がらなかった。
「なんて賢い猫様達だろう」
信司は今日も幸せだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます