第3話

橘信司は積極的だった。


「おはよう、にゃー。にゃーきち、にゃんた、にゃんじろう、にゃんにゃん」

猫たちが次々と返事をしていく。

信司は猫たちのブラッシングを終えると、自分の身支度を調えた。


「今日から、君たちの可愛らしい姿を見に来るお客さんがくるけど、嫌だったら無視していいからね?」

信司は猫たちを一匹ずつ撫でると、至福の笑みを浮かべた。


信司の店<猫様が主役>のメニューは、紅茶とパンケーキだけだった。

そして、猫様用キャットフードと猫様用おやつが置いてある。

信司はドアを開けて、看板をCLOSEからOPENに裏返した。


しばらくすると、初めてのお客が現れた。

二人の屈強な男たちが鎧をまとってやってきた。

「猫カフェ? なんだこりゃ? 」

「いらっしゃいませ、平和とほのぼのの世界へようこそ!!」

信司が声をかける。


「このお店ではすべての争い事を禁止します。すべては猫様のために作られています」

「ほう、猫ねえ」

「ちょっと面白そうだな」

二人の屈強な男達は信司に近づいた。

「このお店では、猫様が傷つかないよう、武器・防具の類いは受付でお預かり致します」

「ほう」


「俺はラインで、こっちはレインだ。俺たちを知らないのか?」

「あいにく私は他の国から来たので存じ上げません」

信司は素っ気なく返事をした。

「それでは2名様ご案内」


信司はラインとレインの武器と防具を預かると、来場時間をかいた紙を彼らの首に提げた。「当店は一時間1000ギルとなっております。その他、お茶やパンケーキは別料金です」

「結構高いな」

「お、猫だ。ずいぶん毛並みがいいな」

ラインが手を伸ばした瞬間、光の速さで信司が猫との間に割って入った。


「猫様に触れる前に、手を洗って下さい!」

「ずいぶんうるさい店だな」

ラインが手を洗うと、レインも続いて手を洗った。

「猫様はデリケートです。触れるときも優しく気をつけて下さい。追いかけるなんてもってのほかです」

「はいよ」

ラインとレインは、気に入った席に座るとにゃーと、にゃーきちがやってきた。


「おお、猫がやってきたぞ」

ラインが嬉しそうに言うと信司が答えた。

「にゃーとにゃーきちです」

「おい、パンケーキとお茶を一つ」

「セットメニューで1000ギルになります」

「じゃ、2セット頼むわ」

「ありがとうございます」


信司は台所に移動した。

ラインとレインはゴツい見かけに対しておとなしかった。

猫たちは気ままに歩いたり、眠ったりしている。


「お待たせ致しました」

「おう」

そう言って受け取ったパンケーキには、にゃーとにゃーきちの似顔絵が描いてあった。

絵は・・・・・・ヘタウマだった。


「可愛いな」

「ありがとうございます」

「いただこう」

ラインとレインはパンケーキを食べお茶を飲んだ。


「うまいじゃないか」

「ありがとうございます」

「お、来たな? 食うか?」

ラインが猫にパンケーキを与えようとしたところ信司がぶち切れた。


「何しやがるんだ猫様に!! 」

今までの温和な信司が消えた。そこには真っ赤な顔で怒り狂う信司がいた。

「おいおい、ちょっと猫にやろうとしただけじゃねえか」

「猫様の健康を守れない屑野郎には、ここにいる資格はねえんだよ!」

信司の豹変ぶりに、ラインとレインは呆気にとられた。


「おい、そろそろ時間だし、店出ようぜ」

レインが言うと、信司はクールダウンしたらしく元の温和な表情に戻った。

「今日はありがとうございました。お会計は4000ギルです」

「猫って可愛いもんなんだな」

ラインがそう言うと信司はとろける笑顔で言った。

「はい、それはもう」


その日は、他に女性のお客さんが4人きた。

全部で6人。

猫たちの疲れを心配して、信司は早めに店を閉めた。


「今日はお疲れ様、皆」

そう言って、猫たちのブラッシングを終えて、初日の営業が終わった。

猫たちは夜になって、街へ出かけていった。

信司はそれを見守ってから、また寝袋で寝た。

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