劣等生の端書き

@yutataka111

失望

「よっ!どこから来たの?」

「こんにちは、A市から来たよ。よろしく。」

今日は定時制高校の入学式だ。校門に差し掛かったところで、ヤンチャ風のインキャに声をかけられた。高校生デビューかな?と小馬鹿にして軽くあしらう。

「じゃあ、今日から友達な!」

「ああ、そうだな。」

友達なんて言葉を最後に聞いたのはいつだったか?確か小六だったと思う。

保育園からの付き合いの友達と遊んでいたときに、そいつの家が他の連中で定員だから、「定員漏れのお前は帰れ」と言われた時のことを思い出す。「保育園からの付き合いだろ!」と言い返す間も無く追い出された。家に遊び行った時は、俺も入れるくらいかなりゆとりがある部屋だったことを思い出し、かなり寂しい思いで家路に着いたことを回想する。

高校生デビューくんは、こなれた手つきでラインを開き、「んっ!」と言い、QRコードを見せてくる。

「なにそれ?」

と彼の意味不明な言動に素っ頓狂な声を出してしまう。

「友達だろ?QR読み取れよ。」

「どうやってやるんだよ。それ」

お察しの通り家族以外とのラインをやったことがないので、巷ではSNSが流行っていたが、あまり関心もなくやり方さえも知らない状態である。

「ふぇぇ!ラインやってねえのかよ!お前!」

「やってるよ。」

「じゃあ交換しようぜ!やり方俺が教えてやる!」

((ピコン))

「オッケー!これで俺らは友達だな!よろしく!!」

「おう。」


入学式が始まった。

意外と席が並べられているが、埋まっているのは、6割ほど。校長が名前を呼び上げるが、ほとんど居ない。当然、校則なんてあってもないようなもの彼らを拘束するものはいないので、金髪、短パン、刺青入れてる奴もいるが、教師は知らん顔。入学式ってサボるのもアリなのか...余談だが、入学式で会わなかった奴名前だけ呼ばれた奴らのほとんどは進級するまで、一度も顔を見せなかった。


無事入学式を終え、言われた教室に行くと、先ほど高校デビューを果たした彼が、談笑していた。俺はシカトしようとすると気付いたらしく、親しげに話しかけてきた。

「よう!ほとんど来てねえな!楽しみだなぁ!高校生活!お互いがんばろうぜ!

「おう、そうだな。」

会話が億劫だったため、席へ着くやいなや愛読書の人間失格を読み始める。

何故彼が、太宰治に敬愛していたか、それは、反抗期が要因で、高校受験に挫折し、自らは屑だと自覚して、殻に閉じ籠もり、日常的に読んでいたライトノベルで人間失格の一端が引用されていたからである。「恥の多い生涯を送ってきました。自分には、人間というものが、見当つかないのです。」まあこれには、説明は蛇足なほど有名な文だろう。受験期頃から、専ら勉強もせず、文学に耽り、入試をサボったくらい傾倒して(でも入学式は行った)、太宰治全集を段々と読み進めていた。読書とは、趣味の極地であり、孤独という快楽への誘いである。

気付いたら担任が自己紹介をしていた。

無関心な俺は、一度歩みを止めていた文学の道を再度歩き続けた。

傍目に長々と述べている自己紹介、中身のない生徒たちの会話。ここからの始まる高校生活の3年間が無意味のように感じ、高卒という学歴を得るために、3年という貴重な時間を浪費するのに、世俗という得体の知れないものを恨んでいた。

ある時を思い出す。三者面談の時だ。

「お宅のお子さんは、内申点が低く、全日制の高校じゃ、ここしかありません。この点じゃ、ここさえ行けるか不安ですけどね。」

「はぁ...あんなに塾行かせたのにねえ!」

恨めしそうに劣等生の俺を見つめる母親。

「とりあえず、内申点は最低だけど、行ってみる?」

「高校行ってもなにも得れねえよ。働きてえ、くだらない。」

「なに言ってんの!高校行きなさい!」

いつもこれだ。

親ってのは、子供本意で育ててるっていうが、所詮は、世間の傀儡である。子供がどういう育ち方をするよりも、子供がどう世間から見られている方を重視し、世間という見えない敵を戦い、虚しく死んでいく。


そんな紆余曲折があり、俺は定時制高校の入学式に出席し、担任の先生の自己紹介を無視し、文学に耽っていた。


「では、明日から皆さんよろしくお願いします!」

開け放たれたドアから、和気藹々と生徒たちが放たれていく。空気と一緒で換気しなければならない。

「おい!待てよ!」

後ろから駆けてきた。高校生デビュー君だ。

「なんだよ。(なんで俺に構うんだよ)」

と不服な表情を垂れて応える。

「一緒に帰ろうぜ!」

「いや今日は忙しいわ。ごめん無理。」

適当な理由をつけ、相手を寄せ付けない。

「ほんじゃあ!またな!明日からよろしく!」

そんなわけで、多忙(?)な一日は終わった。本当にくだらない。高校に行ったことを早くも後悔していた。

本は高いっていう人がいるけど、枕にすればさぞ高いだろう。しかし読めば、こんな知識を与えてくれる安いものはないと気づく。読書は、教師要らずで、様々なことを教えてくれる。しかし、読書をしなければ、何も教えてくれない。(少し砕けてはいるが、引用した。読書のすすめ 著 岩波文庫編集部)

読書というものは、主体性に為さねば、何も得れない。万学が、そういうものだと教えてくれる。最近では、自分が主体性と受動性の矛盾に気づき、当惑しているため、取り敢えず精読をして、数多の本を繙いているが。

学問は、何かを得るためにそのものが為されるのであって、何物も得れなければ、無学と同等である。(学問のすすめ 著 福沢諭吉)

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