第7話

 幸い、この家には家電など必要最低限の物は備え付けられていた。

ベッドも折り畳みの簡易的なものがあり、余計な出費がないのは有難い。


「さーて、私もあの2人みたいにこれからどうするか考えないとね」


 しかし、半年間は猶予があり、ゆっくり考えていけば良い。

それより、まずはこの散らかり放題の部屋を片付けなきゃだ。







 翌日は2人ともバイトがあり、朝は私一人だ。

ユージ君は大学の図書館に司書補として、マサル君は電気工事士の見習いとして都内の現場に向かっている。

ちなみに、司書補とは司書の見習い的なもので、司書になるためには司書補として1年勤め、その後講習を受ける必要があるらしい。

電気工事士は資格が無くても現場には入れる為、見習いの段階なら資格は必要無いとのことだ。

私は早速、リビングに散乱している服や雑誌を拾って片付けを始めた。


(彼らも上京して一週間だし、片す暇も無いか)


 私なら、上京しただけで疲れ果てて、バイト探しまで手が回らないと思う。

ふと、黒いトランクスが落ちているのに気付き、拾おうか迷ったが、まあ、別にいいかとつまみ上げて洗濯機に入れた。

他の服類もまとめて投入し、スイッチを入れるとゴウンゴウンと旧式の洗濯機が唸りを上げた。








 夕方、2人が帰って来ると、ユージ君が声を上げた。


「すっげ、片付いてる!」


「服は干してあるから、乾いたら自分のは自分で干してね」


「うん、有難う。 ねーちゃん」


(ねーちゃん……)


 既に2人の中で、私はねーちゃんになってしまったのか。

しかも、ユージ君に関しては、人懐っこい性格の為か、敬語をやめてしまっている。 

 夕飯は今日は何も用意していなかった為、駅前の回転寿司を食べに行くこととなった。

私は、後ろを歩く2人に質問した。


「2人とも、お金ないなら今日は奢るけど」


 作業着から私服に着替えたマサル君が慌てる。


「あっ、それはマズいですよ」


「いいよ、どうせ100円寿司だし」


 そのまま先頭をきって、私は寿司のチェーン店に入った。









(結構、食べるな……)


 2人はエンリョという言葉を忘れてしまったかの如く、タッチパネルでじゃんじゃん注文していく。

その間、私は聞いてみた。


「……で、どう、バイト楽しい?」


 ユージ君がやや苦笑いする。


「いんや、楽しくはないかなぁ……」


「何で?」


「今やってんのは、返却された本を棚に戻したりしてるんだけど、それが終わったらな~んもすることない。 大学、休講してるし」


 ユージ君はサッカーが好きだし、どちらかと言えば体を動かす方が向いてるか。

マサル君の方も、私の質問には答えず、視線を落としている。

私もその気持ちはよく分かる。

上手くいっていない仕事の話をするのは酷なんだ。

だったら……


「ねぇ、2人とも。 仕事、チェンジしてみたら?」




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