第11話 平穏な日々
あれから大体一ヶ月程の月日が経った。
あの後、学校に登校した次の日、未崎、神楽坂、桔紫からすぐにかけよられて、心配をされまくった。
自分でもひどい倒れ方をした自覚はあるから、心配をかけてごめんと伝えた。
桔紫には二人から説明があり、最初は戸惑ったそうだけど、俺の事情も理解してくれたみたいで安心した。
それからというもの、この五人で集まって昼食をとることが多くなった。『自分を許す』この言葉を自分の中で少し考えてから、ある程度は自分の中でメンタルバランスをコントロールできるようになってきたような気がしてきた。
それからは、この五人で過ごしていても発作が出ることはなくなった。
罪悪感が無くなったというと嘘になるが、それでも自分がそれまで葉月に対してやってきたことが間違ってなかったと納得できるようになり、前よりは薄れてきている。
そうなった今では、いわゆる普通の学園生活というものを送れていると思っている。
未崎、神楽坂とは、前まで感じていた壁というものが無くなったと思えるぐらいに、話せるようになっていた。前までは、火帆の友達という枠から出なかったが、今では数少ない友達の一人と自分中で変わっていた。
桔紫とは、今ではクラスで一番会話をする仲にまでなっていた。呼び方も、お互いに呼び捨てに変化した。
元々クラスの中で話す人といったら、今でも桔紫しかいないのだが、授業が始まるまでの休み時間ずっとたわいのない会話をしたり、わからないことがあったりしたときは、その内容を教えたり仲良くしていると言わないとおかしいくらいには付き合うようになっていた。
一方火帆とはというと、そこまで変わっていない……。
この一ヶ月、一緒に過ごしてみてだんだん関わり方もマイルドになっていくだろうと思っていたが、一か月前と何も変わっていない……!!
未だにお弁当を作ってきてくれたり、学校まで朝手を繋いで歩いたり、これが馴染みすぎて今では注目すらされなくなってきている。
「水郷君、はい、今日のお弁当。」
今日もまた、いつものように五人で集まって食べる中で、火帆が作ってきてくれたお弁当を受け取る。
「本当、いつもありがとう」
実際、相当助かっている部分があり、毎回貰っているだけでいいのか、かといって何をすればいいのか本当に頭を悩ませている。
誕生日とかにでも絶対、お礼をしよう!!
一方、こっちの様子をみて話を弾ませる三人
「なんだかだんだん、この光景に慣れてきてる自分が怖いわ~。」
「うん、人の慣れって恐ろしいよね。」
「同じく同感。」
かれこれ一ヶ月近く、三人は毎日こんな様子を真近で目にすることになってるわけで、この三人じゃなかったらどれだけ後ろ指を指されたものかわかったもんじゃない。
「しかも何よりすごいのは、火帆の口から未だに水郷君関連の話題が尽きないことなんだよね……。」
「それは私も思ってた。むしろ前より増えたんじゃない……?」
火帆、一体二人になにを話してるんだ……。
「ちょっと二人とも、水郷君の前では言わないでって約束したじゃん……!!」
少し焦ったように顔を赤くして二人に詰め寄る火帆。
「あ、ごめん忘れてた。でも水郷君に聞かれても、全然大丈夫だな内容だと思うんだけど。むしろ聞いてほしいくらい。」
表情を見てみると、またいつもの未崎が浮かべるニヤニヤが発動している。たしかに何を話していたのかは気になる……。
「ぜーったいダメ~!! あんなことバラされたら、私生きていけないよ……!!(ボソッ)」
後半はギリギリ聞こえるかどうかぐらいな声量だったが、多分間違いないと思う。
……!? 本当に何を話していたんだ……!! 俺に関してそこまでのことを言ってたのか……。
「え〜残念だな〜。でもまぁ、これから二人で仲を深めて行けばいい話だもんね。なら水郷君はそのときを楽しみにしててね。」
「もう明希乃その話はもういいから……!!」
火帆によってこの話は遮られてしまったけど、その言葉の通りいつか来るかもしれないそのときを楽しみにすることにした。
それから数分の間はみんな普段のような和やかな雰囲気が漂っていたが、神楽坂の発した言葉が一気に場の雰囲気を変えた。
「そういえば結月君、今度勉強を教えてもらえない? 入学試験のリベンジもしたいし。」
「え……? 教えるって、それにリベンジって。」
「もうすぐ期末テストがあるでしょ。それで勝負するの。もしかして忘れてた……?」
その言葉を聞いて、俺と神楽坂以外三人がピクリと動いた。
この学校は一学期と三月期は中間テストがなく、一学期は今回の期末テスト一発で成績が決まる。たしかここで赤点を取ると、夏休み補習があるとか担任が言ってたような……。
それを聞いた後の三人の様子を見てみると一気に表情が青ざめ、さっきまでの和やかな様子は全くなくなっていた。
「おーい、三人とも、大丈夫……か……?」
声をかけてみても、みんなまるで虫の声のような静かなトーンで答えてくる。
「う、うん……、大丈夫……。」
「テ、テストかー……、そういえばあったね……。」
「別に忘れてた訳じゃないし……、ね……。」
明らかに三人の覇気が無くなった声に、俺と神楽坂は一瞬でなんとなく察し、三人に対して神楽坂の方から提案をした。
「もし不安なら、みんなで勉強会でもする……?」
「是非お願いします!!」
神楽坂が発してからの間がないくらい若干、食い気味に三人揃ってお願いをしてきた。
というわけで、来週あたりからこの五人で揃って勉強会というものをすることになった。元々、成績が芳しくない教科があれば協力はするつもりだったから、想定通りといえばそうだけど。
そこで、三人をどういうふうにして教えればいいのか、一応の組み分けをすることになった。そのためにどの教科が苦手なのか聞くことにした。
「えっと、火帆の苦手科目ってなに?」
「細かく括らないと、理系科目全般……。」
後で細かく聞くと、文系科目の方はこの学校の中でもある程度できる方らしく、そっちの方の心配はいらなそうだった。
これを聞いて、神楽坂がこんな提案をしてきた。
「なら、結月君に専属でついてもらって教えてもらうのがちょうどいいかもね。私はこの二人をまとめて教えるから。よく聞くと、二人とも苦手なところある程度被ってるようだから。」
「二人とも、ありがとうね。」
「本当に感謝します!!」
「真面目にありがとうございます。」
てなわけで一応、来週あたりに集まることが決定した。
それからまた、普段の雑談に戻ったが少し気になることがあったから未崎と桔紫の二人に聞くことにした。
「そういえば二人って、幼稚園の頃から一緒って話してたけど、ずっとこんな感じだったのか?」
家も近いということは、本当に小さい頃から一緒なのだろう。だからここまでの幼なじみとなると、距離感的なものが少し気になった。
この質問にはまず、未崎が答えてくれた。
「うーん、さすがにずっとこうだった訳では無いよ。小学校の高学年の頃とかは、お互いからかわれることも多くなって学校では話さなくなった時期もあったし。」
その後に続いて、桔紫も口を開く
「あの時期は色々あったもんね。小学生の時にやられる典型的なイジりもあったし、僕たちも軽く受け流せる歳でもなかったから、一時期はそういうのもあったよ。」
あれぐらいの歳のときなら、たしかに有り得る話だ。うちらの学校でも、二人みたいな組み合わせが狙われたことは何度かあった。
そう納得していると、未崎が口調を変えたように、桔紫の方を見て話を続けた。
「でもね、中学に入った瞬間に、なんでこいつらの目なんか気にしなきゃならないのって思ってから、そこから開き直っちゃって学校でも今みたいに接するようになった感じだよ。」
「急に前みたいに戻ったときは、ちょっと驚いちゃったけどね。でも、嬉しさの方が強かったかな。何気に寂しかったからさ。」
「それは私だってそうだよー。ずーっとモヤモヤしながら学校通ってたし、話したいタイミングで声かけられたないのって、なかなか辛かったよ……。」
そう言いながら自然と桔紫の腕を自分のところまで抱き寄せる未崎。ここまで見て聞いてると、周りから見れば付き合ってないのが不思議に思えてくるほどだ。
なかなか周りにはわからない距離感だな。と思いつつ、ここまで気の許せる仲が少し羨ましくもあった。俺と火帆の仲とは違う、もっと深い何かが二人の間にはあるのかもしれないな……。
「って、そんな私たちのことより、お二人さんはどうなの?? 付き合い始めてから一ヶ月ちょっとでしょ。あれから何かないの??」
そう考えに浸っていたところに、いつもの調子に戻ってきた未崎がこっちを見ながら、パッとその場の話題をひっくり返して、今度は俺たちの方にバトンが渡ってきた。
それを聞いて火帆と目を合わせ、この一ヶ月のことを思い出してみる。
「あれからなにか……。」
「あれから……。」
あれ……? あの放課後デート以降、それらしい事は特にしていない……? でも、いつも朝から一緒に登校して、火帆の手作り弁当をお昼に食べて、下校の時も一緒で……。
いつも一緒に過ごしてたから、全くそういうことを思い出さなかった……。
「あれからは、特に何もないし、いつも通りかな。」
だけど、あれからは特に特別なことはなかったので、別に気にすることなく素直に答えた。
「本当に何も無いの……?」
そう言ってジーと目線を合わせてくる未崎。明らかに怪しがっている様子だ……。
何も無いというか、特に話すようなことをしていないと言うか……、どう言えばいいか迷っていると、火帆の方から言葉が飛んできた。
「特に話すようなことは、本当に何も無いよー。いつも一緒にいられてるから、私はそれで満足だし、特に何か特別なとこに行こうとかならないんだよ。」
それを言い終わったところでチラッとこちらに目線を合わせてくる。合わせたといってもほんの一瞬で、アイコンタクトという訳でもなさそう、何かを伝えたかったのか……?
その火帆の行動を深読みしている中で、火帆と未崎の会話は進んでいく。
「二人の様子だったら、どこまで行ってもおかしくないくらいなのに。じゃあ、まだしてないの……?」
「してないって、なにを……?」
それを聞いて未崎は火帆の耳元に近づき、コソコソと火帆にだけ聞こえるような声のボリュームで伝えた。
それを聞き終えて少ししたら、だんだんと頬が赤く染まってゆきそれから俺の顔を一瞬見て、そこから俯いてしまった。
「その反応ってことは、もうしたんだ〜(笑) 二人とも奥手そうなのに意外とやるじゃん!!」
そう言いながら未崎はこっちをみながら、またさっきのようなニヤニヤを向けてくる。
ん……? 待て、なぜ今俺はこのニヤニヤを向けられている? たぶん二人でコソコソと話していたことについてなんだろうけど、何故そこまで面白がれているのか……。
「あれ、水郷君まだ気づいてない? 私たちが話してたこと。」
まさに自分が疑問に思っていたことを、そのまま声に出してくれた未崎。
「ああ、全くもってわからないんだけど……。」
「火帆がこんなに真っ赤になってるんだから、ちょっと考えれば水郷君もわかるよ。最近なにかなかった?」
最近あったこと……、ちょっと真剣に考えてみて……。火帆があそこまで赤面するなにか……。
ここであの日のあの瞬間が蘇る。そっと触れたあの感触……。
もしかして、あのキスした日のことか……。
改めて思い出すとこっちまで顔が熱くなってしまう。それを見て俺も思い出したと未崎は理解し、話しかけてくる。
「その様子だと、しっかり思い出したみたいだね(笑) 二人して同じ反応するなんて、やっぱり仲良いね〜。」
「そりゃあ……、こうなるだろ……。てか、これはそれほど最近の事じゃないんだが。」
「あれ? そんな最近じゃないの? 火帆の表情から、てっきりついこの前したものだと思ってたから」
「明希乃、その辺にしておいてあげな。火帆の方がもう持たない……。」
未崎にこの前のあのことについてほじくり出されていると、神楽坂が火帆の座っている方をみながらそう言った。
神楽坂が見ている方へ視線を合わせていくと、俺の隣に座っている火帆が俯いたまま、耳まで真っ赤に染めて黙り込んでいた。
「お、おーい。火帆、大丈夫か……?」
「か、火帆ごめんね。そんなに気にしちゃう
とは思わなくて……。イヤだったなら、謝るから。」
俺と未崎が話しかけても反応がない……。というか下を向いているせいで、全く表情が見えない。
なんとか表情を確認しようと俺は下から覗き込むことにした。
「おーい、火帆……?」
目と鼻の先にいるこの距離で話しかけても反応がない……。
もしかしたら、眠っているのかと思い仕方なく、火帆の身体を揺すってみることにした。
「火帆、寝てるのか……?」
「うわぁ!! み、水郷君……!!」
触ってみた瞬間、勢いよく反応を示した火帆。顔を見てみると、目の周りははれてなかった。この様子だと眠ってた訳じゃないみたいだな……。
「どうしたんだ……? ずっと反応がないから、心配してたんだ。」
「あ、あーそうだったの! みんなもごめんね。私はこのとおり何ともないから、安心して。」
たしかに大丈夫そうではあるけど、さっきのは一体何があったのかは少し気になった、でも聞くことはなかった。
それからお昼を食べ終わって、授業が始まる10分前となりそろそろ教室へ移動しようとするタイミングで、俺は火帆に誘いを出す。
「火帆、今日の放課後大丈夫か? 着いてきて欲しいところがあるんだ。」
「うん、大丈夫だけど、着いていくって何かあるの……?」
「何かあるといえば、たしかにそうだな……。一応、着いてみてから詳しくは説明するけど、それでもいい……?」
「うん、大丈夫だよ!! じゃあ、放課後待ってるね。」
こうして約束を交しお互いのクラスへ別れて行った。今回はデートって感じてはないのがごめんだけど、いつかまた埋め合わせはしよう。
ていうか、俺も行きたいし……。
〜続く〜
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