第9話 渡り鳥

レイナはロアンのサポートを受け、村人たちの病を治していった。最初は魔女レイナを嫌悪けんおしていた人たちもレイナの丁寧な態度とロアンの一生懸命な説得で徐々に警戒心をといていった。途中、レイナに石を投げた村人の家族を治す時は少しもめたが、ロアンと後からきたレイ、トロワ、カレンのおかげで何とか和解し、病にかかった人たちを治し終える頃にはレイナは村の恩人として扱われるようになっていた。


「お疲れ様でした!レイナさん!」

「お疲れ様」

村を周り終えたレイナとロアンはダンテたちの家に戻ろうとしていた。するとそこにランスがやってきた。

「レイナ、少し話がしたい。」

その言葉にレイナは心の中でため息をついた。ランスの事をあまり良く思えていなかったからだ。

(…面倒くさい…)

「…ここでは話せないのかしら?」

「そうだな、2人だけで話がしたい。」

そう言うと返事も聞かずに歩いて行ってしまった。

「一体なんなのかしら?」 

「レイナさん、僕はじい様達に村人の治療が終わった事を伝えに行きます。だから兄さんの話を聞いてあげて下さい。」

ロアンに言われ、レイナは仕方なくランスの後を追いかけて行った。


ランスは森の入り口の方まで歩いてきた。

「どこまでいくつもり?」

後ろから追いかけてきたレイナが声をかける。

「この奥のさらに奥でお前は暮らしてきたんだな。」

森は深く先がほとんど見えないほどに暗い。流れてくる空気は冷たく、森に入ろうとする者を拒むかのような雰囲気だ。

「えーと、何が言いたいの?」

いきなりな話にレイナは少し戸惑っていた。

「お前の話を聞いた。魔女…いや…。120年前ここへ来たレイナ・タチバナの話を。」


久しぶりに聞いた自分の苗字にレイナは体が冷たくなっていく気がした。

「…誰に聞いたの?」

小さく、震えた声がでる。

「じい様達だ。信じがたい話だが、ミグラテールの噂はおれも耳にしたことがある。実際に会うのはお前が初めてだがな。」


「ミグラテール?」


「お前のように別の世界から渡ってきた者の事をそう呼ぶ。神に選ばれてこの世界に渡ってきた者。」

"神"と言う単語にレイナの指がピクリと動く。

「…神に選ばれた、…ね。それで?他には何を?」


「神がじい様達の祖先の目の前に姿を現し、別世界から来たお前を見守るよう命じた。それと同時に何があってもお前が望まぬ限りは接触はするなとも言ったそうだ。しかしその話が長い年月のなかで変化していった。そしていつしかお前は魔女と呼ばれるようになったのだと。

その誤解をかなかったのは村人がお前に接触しない方法の1つとしてその間違った話をそのままにしておこうと祖先たちは考えたらしい。」


「じゃあ、あのお爺様たちはわたしが魔女でもなんでもないと最初から全部知ってたって事ね。」

呆れ顔でレイナは言った。

(どうりで魔女と呼ばれて嫌われてるわたしの助けをあっさり受け入れたのね。)

「神の使いと知らなかったとはいえ、数々の無礼、本当にすまなかった。」

急にかしこまりランスが深々と頭をさげた。

「神の…使い…?わたしが?」

「そうだ。神は自ら人の前に現れお前を使わしてくれた。神が人の前に姿を現すなど奇跡に等しい。だからお前は神の使いなのだとじい様達は言っていた。」

その話を聞いた瞬間レイナの心は怒りに震え、ランスに叫んだ。

「わたしは…わたしは!あんなやつの使いなんかじゃない!!!」

突然のことにランスは驚き、沈黙が2人の間に流れた。

「…何か気にさわる言い方をしたなら謝る。」

ランスの言葉にレイナはハッとした。

「ご、ごめんなさい!!えっと…まだ、村の問題が全部解決した訳でもないのにこんな所で話ばかりもしていられないわ。最後の仕上げをしましょう!」

かなり不自然にその場を取り繕いレイナが言うと、そんな彼女の心中を察してかランスはそれ以上話を聞く事をしなかった。

「…そうだな。それで?最後に何をするんだ?」

「えっと…村に引いている水の水源を確かめたいの。多分、農作物の育ちが悪いのはそこで何か起きたからだと思うわ。」

レイナは深く追及してこないランスに心のなかで感謝しつつも、なんとも言えない場の雰囲気を早くなんとかしたいと思った。

「水源か…今から行ったのでは日が暮れてしまうぞ?」

「なら、また明日にしましょう!その時に今回村で起きたこともいちから説明するわ。」

それだけ言うとレイナは逃げるように村の方へ走って行った。




10話へ続く


















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