セピア色の記憶

嬌乃湾子

なんて事はない話かもしれません。


この頃の花絵は21歳。両親は母が誕生日の日に結婚して、二人が結婚21年目を迎えた時花絵も21歳になりました。



花絵が21歳の頃といえば1994年。彼女がどっぷりハマっていたバンドブームも90年代に入ってからは少し落ち着き、テレビではマライア・キャリーやTRF等がよく流れていて、アニメと云えばその頃が世代だった人を除いては後の萌えブームのように万人に向けられたようなメジャーではなく、この頃はとにかくまだ「平和」だった時代のような気がします。



それでも二十代、一番良い時で花絵は友達とよくドライブに行ったりゲームセンターでクレーンゲームをしたり、カラオケに行ったり飲みに行ったりで遊んでいた彼女、その反面職場の人間関係で崩れ、最初に入った職場を辞め今は新しい職場で働きました。



花絵が小さかった頃は、お盆の日に親戚の家に遊びに行ったり、逆におばあちゃんに会いに親戚が子供を連れてよく遊びに来ていました。いわゆるお父さんの三人の姉で、年齢が近かった花絵と妹の千花はその子供達とよく遊んだり喧嘩をした思い出もあったけど、子供たちが成長するにつれそれぞれの家に行くのは段々と遠のきました。



今日はお母さんの誕生日兼、結婚記念日。家には両親と花絵と妹の千花、おばあちゃんにワンコがいて、お父さんがお母さんの為にケーキとスーパーのパックの寿司を買ってきました。


お母さんはいわゆる花より団子を地で行く人だったので、スーパーの寿司を喜んで食べ、それからみんなでテレビを観ていると、突然おばあちゃんが奥の机に向かって丸い背中を向け机の扉を開くと、ゴソゴソと何かを取り出してきました。



それは何冊もの太いアルバム。花絵と千花が赤ちゃんだった頃や学校行事のお父さんが撮り続けた写真を見ながら盛り上がっていると、それとは別のアルバムも見つけました。



「何これ若ーい!!」



花絵たちが生まれる前のアルバムで、そこには今の花絵と同じ頃の、身内の写真も何枚も出てきました。



学ランを着たお父さん。昔お父さんはよくバンカラバンカラと言っていたので、お父さんは明治時代のバンカラファッションに憧れていたのか?



親戚のおばちゃん達の若い頃。三人の娘が水辺で楽しそうに笑ってとても若い!



お母さんの花嫁姿の写真もありました。白いドレスに後ろ裾が長く引いて、その立ち姿が綺麗で、それぞれが清楚に見えてセピア色の記憶としていつまでも残っていました。



花絵はお母さんが結婚した時と同じ21歳になったのに中途半端な自分にモヤモヤして、ぼそっと言いました。



「私、お母さんと全然違うね」



そんな娘にもお母さんはおおらかでした。



「私もあんたみたいだったんだから気にせんでいいのよ。なるようにしかならんのだから」







あれから激動の時をいくつか越え、おばあちゃんが亡くなって両親は70歳を過ぎ、花絵と千花もそれぞれ別の人生を歩いていました。



花絵は色々あったけど、父と見た目は違えどどこか似ている人と結婚し、今は21歳の息子がいます。



花絵の誕生日に夫がケーキを買ってきてみんなで食べようと言うので花絵は料理を作りながら息子の章にメールを送りました。



母 Re お父さん、ケーキ買ってきた。いつ頃帰るの?



章 Re 今日千花おばちゃんも来るんでしょ?いいわ俺、友達ん家に泊まる



母 Re 千花、あんたに会いたいって言ってたのに‥‥



章 Re どうせ愚痴大会やし就職の事とか言われるとしんどい



母 Re 気にせんでいいのよ。なるようにしかならないのだから!



花絵は昔自分のお母さんが言っていたのと同じ言葉を言うと彼からの最後のメッセージ。



章Re お母さんには解らんて‥‥



メールのやり取りを終えると、花絵のスマホには章と一緒に撮った待ち受けが現れた。

花絵は母と同じ21の時を過ぎ、息子の章も今21の時を迎えています。

結婚して母と同じ状況になった、今となって母の気持ちが良くわかる。花絵にとっては「21回目の失敗」の方が多いけど、スマホの中の写真には沢山の輝いている思い出、花絵も同じように輝いた目で見ながら思った。



君は、これからどんな日々を送るのかな?と。



終わり




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