先輩ファンクラブ

Tonny Mandalvic

先輩ファンクラブ

 僕ら以外誰もいない図書室。

 僕と先輩のふたりきりの金曜日の午後。

 僕は先輩ファンクラブを立ち上げることとした。


 なんで先輩ファンクラブを立ち上げるかって。

 それは先輩が大好きだからです。


 入学したとき、右も左もわからず、何にもほかのクラスの仕事をしたくないから楽そうにできるということで図書委員になったら、ほかの人はみんな参加せず、先輩一人で図書室を守っていた先輩。

 とてもきれいな先輩の姿に目を引かれて、僕は先輩の手伝いをすることにしました。


 毎日隣にいたけど最初のほうは、お互い話すことがなくて、よそよそしくしていましたね。


 仲良くなれたのは、学校祭での古本市。

 その際にお互い作業していく中で、先輩の好みがわかってきました。

 意外と漫画も読むんですね。

 逆に僕は漫画以外の小説も読むようになりました。

 先輩から紹介された本はすべて読みました。


 古本市では、ほとんど冷やかしだらけで誰も買ってくれませんでしたね。

 毎年こんなものだよという話だけでしたが、ちょっと寂しそうでした。


 そのあとの打ち上げでクラスの中では静かにしているとのことでしたが、はっちゃけていた先輩は特にかわいかったです。




 仲良くなってからは、僕は学校に行くのが楽しくなりました。

 学校に行かなければ絶対引きこもっていました。

 雨の日も風の日も大雪の日も、僕はあなたに会いたくて学校に通っていました。

 あなたと会える昼休みや放課後が待ち遠しかったです。

 逆にあなたのいないときは面白くなかったです。


 だから、あなたのファンクラブを作ることにしました。

 異論は認めません。



 突然言われた彼女は、ついにこいつは頭がおかしくなったのかと思ったのか、優しそうな表情をしてありがとうといった。


 どうせ好きですといったって振られるオチだとわかっているのだから、このようにファンクラブを作りますと言ってみた。


 こうしてしまえば相手も意識せずにこれからも先輩かわいいよ先輩ができるだろう。


 そのためだけにやってみた。




 まあ、先輩ファンクラブって言っても会長俺、会員なんか募集するかボケの世界の話であるが、それはそれ、これはこれ。

 明日から先輩を愛でる活動をすることとした。


 先輩ファンクラブ会則その1

 先輩以外の女子には興味を示さない。


 どんなにかわいい女子がいても、アイドルや声優、二次元のキャラがいても興味を示さない。

 まあ、アイドルや中の人たちは実際に付き合えたり触れ合ったりすることは金輪際無理なので、そんなのには興味を示す必要がないが。


 先輩ファンクラブ会則その3


 先輩が恥ずかしがることはしない。


 先輩を辱める会ではないので、先輩の嫌がることはしない。

 陰でこっそり応援するのが先輩ファンクラブ道の王道である。


 先輩ファンクラブ会則その3


 先輩とは図書室もしくは図書委員のことでしか会話しない。


 ほかのところで先輩とあっても、このような下々のものである自分が、会話をするなんて恐れ多い。

 ましてやストーカーなんて論外だ。



 上の会則を一人で決めて、週明けからファンクラブ活動をすることとした。


 週明けの金曜日、彼女は先週の僕が発した別れ際の最後の言葉なんかまったく気にしていないようだった。

 彼女は、本を読んだり勉強をしたりしていつものように過ごしている。

 彼女と横に座りながら、利用者が来るのを待っている。

 今日もまた彼女の横にいる一番近いけど、ある意味遠いような距離の時間がはじまる。

 いつも通り誰も来なかった。



 帰り際に、彼女から話しかけられる。

 先週金曜日とは違い挨拶をして、今日の先輩との触れ合いを愛でようと思っていたが、先輩から話しかけられて少し浮足立っていた。


 私のファンクラブって冗談だよね。


 彼女に問われたので、当然ながら


 僕は本気です。


 と答える。


 彼女はそれを聞いて特段何も反応しなかった。

 そんなことを言われて友人程度の関係性で嫌がる人はいないだろう。

 嫌な奴だったらほんとに嫌がられるだろうが。


 それを聞いた彼女は特段嫌がっているそぶりは見せなかった。

 先輩に嫌われていないのでよかったと思う。



 次の日からも毎日2年間ほぼ毎日隣に居続けた。

 陰でこっそり先輩ファンクラブ活動をし続けた。


 そして彼女が受験のために居なくなる最後の日、意を決して、最後に時間をとってもらうこととした。

 卒業式の日には彼女と会えないかもしれない。

 またクラスメイトと彼女は話し続けるかもしれない。

 こんな時間はもうとってもらえないかもしれない。

 卒業したら彼女は本土に行ってしまう。

 本土に行ったらもう本当に会うことができない。

 最後に自分の思いを伝えることとした。



 先輩のファンクラブを作る前から好きでした。

 なので先輩のファンクラブを作ってこっそり活動していました。

 ファンクラブを作っても関係や対応を変えない先輩がもっと好きになりました。

 ふたりで一緒に居られるのはもう最後だと思いました。

 なので最後に思い出の図書室で自分の思いを伝えさせてください。

















 これからも先輩のファンクラブを続けさせてください。

 あとついでにメールアドレスを教えてください。



 最後も先輩ファンクラブネタなの。


 彼女の叫びが、静かな図書室に響いた。






 まあ、僕の人生なので、壮絶に振られるよりも、このようにふざけた告白のほうが面白いのかもしれない。返事はいい返事と思えなかったし。人生初告白がこんなもののほうが面白いと思う。





 先輩と会わなくなって、心の中に思い続けていた。メールアドレスは教えてもらい、進路の相談のメールをするぐらいで、そのまま自然消滅していった。


 今先輩は何をしているのだろうか、ふと彼女のことを思い出した。












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先輩ファンクラブ Tonny Mandalvic @Tonny-August3

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