「お母さんは、今日元気そうだった?」

窓の外の景色を眺めるこんに声を掛けた。

「わからない、きのうからずっとねてる。」

「体調悪いのかな?」

「いつもあたまいたいって。でも、わからない。ずっとねてる。」

「そっかぁ…。もう起きてるといいんだけど…。」

「…。」

こんはまた、窓の外を眺め始めた。低く唸るエンジン音を背景に、その目はどこか息苦しそうだった。


そうこうしてる間に、車はカーシェアを借りたあの駐車場に辿り着いた。こんのシートベルトを外すと、こんは何も言わずに車を降りた。コインパーキングに入れるか、返却するか少し悩んだが、結局返却することにした。返却手続きを済ませている間、こんは黙って、地面のアスファルトを見ることも無く眺めていた。

「案内してくれる?こんの家に。」

「わかったよ。」

2人は歩き出す。大通りに比べて舗装が雑なまだ乾ききっていない道は、まるで今の心境のようで、足取りを重くさせる。縋るように、こんの頭を撫でた。こんはこちらを向かずに、その手を握る。その小さな手を握り返すと、こんも握り返してくれた。

ハッとした。これでは、どっちが慰めているのか分からないでは無いか。こんは自分より本当に強い。そして、本当に素敵な人だ。今だって、言い出しっぺのくせに、こんに手を引かれている。それは勿論、場所が分からないと言う大義名分で後ろを歩いている訳だが、本当は怖いから後ろを歩いている事を自分が一番分かっている。こんの小さな歩幅ですら、ついて行くのがやっとな自分が心から情けなかった。

出会った路地にやって来た。ショッピングモールを出る際、車のナビはここにセットしたが、他に近くに駐車場が無いからと、件の駐車場に返したが、今思えばそれも、少しでも時間を稼ぐ逃げだったのかもしれない。朝、無心になって声のする方へ、と向かったこの場所。それを今通り過ぎようとしていた。時間は夕方に差し掛かっていた。もう少しで、晴れていれば夕焼けが見える時間。しかし、今は曇りに覆われていて、時間すら把握出来ては居なかった。

そして、手を引くこんの足が止まった。遂に、遂に、この時が来てしまった。

「ついたよ。ここが…のおうち。」

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