*
そうこうしていると、家から1番近いコンビニに到着した。自動ドアを抜けると、中からいらっしゃいませー。と気怠い店員の声が2人を出迎えてくれた。
こんのメロンパンと水を買い、ついでに自分用に温かいコーヒーも購入し、自動ドアを出る。ありがとうございましたー。と、店員が言い終わる前に、こんは既にメロンパンの包みを開け終えていた。
「余程お腹がすいていたんだね。」
コーヒーのプルタブを開けつつ、そう言った。温かいコーヒーの湯気と香りが、まだ薄く残った緊張を解していく。そのまま、一口、口に含むと、その温かさについ、ふぅっと吐息が漏れた。一息した後、ちらっと、こんへ視線を落とすと、もう最後の一口を頬ばろうとしている所で、その早さに一瞬驚いてしまった。
「ごちそうさま。おいしいめろんぱんでした。」
包みを畳みながら、こんは手を合わせる。
「お粗末様でした。」
こんは、レジ袋を見つめる。その手にはラベルの貼られていない小瓶が握られている。
「そのお水貰ってもいい?おくすり。」
構わないよ、と答えた。元々、こんの為に買った水だ。この雨の中、温かいコーヒーの後に冷たい水を飲もうとは思わない。
「でも、このおくすりの方がいいんじゃないかな。お仕事してるとね、風邪なんかじゃ休めないから。こうやってよく効く薬をカバンに入れておかないと仕事にならないから。」
ほらね、と言わんばかりにカバンから風邪薬を取り出して振って見せた。ラベルが無い薬では、風邪薬では無いかもしれない。そんな物より、自分がいつも大変お世話になっているこの風邪薬の方が効果は絶大のはずだ。
こんは、わかったよ。と返事をするとなれない手つきで差し出した錠剤を飲んだ。ラベルの無い小瓶は、どうやらポケットにしまったようだ。
それを見届けると、コーヒーの空き缶とメロンパンの包みをコンビニ備え付けのゴミ箱に捨て、店を後にした。普段はああしてこうして、と複雑に頭を悩ませてからしか行動が出来ず、上司にもそれで仕事が遅いと説教されていたはずなのに。
これから先の事はこれから考えればいい。今はそう考えていた。
「さぁ、どこへ行こうか。」
お腹から声を出す。こんは少し考える顔をすると、こう答えた。
「しあわせのあるばしょに、つれてって。」
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