何度も小走りで曲がった路地裏を抜け、バスの通る道へと帰ってきた。ここで絡まったイヤホンをほどこうと四苦八苦していたのは、時間にするとそれ程経過した訳では無いのに、自分の心のしこりがほぐれているのような気がしていた。それと同時に、バス停でバスを待つスーツ姿のサラリーマンが目に入る。毎朝見るそれは、当たり前たる大人としての責務を放棄している事実を否応なしに突きつけてきて、そんなサラリーマンと己の責務から目を背けようと、バス停と反対方向にある近くのコンビニへの道を、少しだけ早歩きでスタスタと向かっていく。こんは、急な速度の変化に、横に並ぼうと姿勢を前のめりにして足元を見つつ小鳥のように付き添って歩いている。

日本最大の都会の隣に位置し、そのベッドタウンたるこの街は、片側一車線の大きくない通りにもバスが通り、歩いて10分強の最寄り駅には八分に一度電車が止まる。街中は所狭しとマンションが立ち並び、そのどれもがほぼ満室と来たもので、そんな人の多い場所故に当然のように、コンビニもそこら中にあった。Aと言うコンビニの徒歩一分圏内にBと言うコンビニが立っていることもザラにある。

「1番近いコンビニ × ×だけど、そこでいいかな?」

こんに質問を投げかけるために視線を落とすと、短い足で懸命にチョコチョコ歩くその姿がとても愛らしく感じた。子供なんて、好きだとか思った事無かったはずなのに、だ。

足元を見たまま、こんが答える。

「うん、どこのめろんぱんもおいしい。ざめらがついてるやつ。」

ーーーざめら?

一瞬考えてしまったが合点はすぐにいった。

「もしかして、ざらめ?粗目砂糖の事かな?」

はっという顔でこんが上を向いた。

「あっ…ごめんなさい。」

その感じがたまらなく愛しく感じ、思わずその柔らかい髪の毛にトントンと触れる。こんは少し戸惑ったようだった。

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