第8話 外道勇者一味をボッコボコ

「リードハルト、私を騙し、みんなを欺いていたのですか?」

「ロクサーヌ、違う! 魔物の言うことを信じるのかい?」

「でも……」


 おっ、リードハルトとロクサーヌが喧嘩しているぞ。

 良い場面だな。

 ここで俺が登場して、クソ勇者をぶっ飛ばして、ロクサーヌを連れて帰ればOKだ。


「おい、嘘つき勇者のリードハルト!」

「カーライル! まだいたのか」

「もちろん、ロクサーヌは俺にぞっこんだからな。取り戻しにきたぜ」


 ロクサーヌはリードハルトを離れ、俺の方へ走ってきた。

 リードハルトと一緒にいるのが、よっぽど嫌だったと見える。

 そして、相変わらず美しい。

 走るたびに胸が揺れるから、俺の目はその胸に釘付けになってしまう。


「カーライル様! 助けにきてくださったのですね」

「ああ、あのクソ勇者は俺がぶっ飛ばしてやる」

「ありがとうございます、カーライル様」


 何回目なのか覚えていないくらい、俺はリードハルトと戦ってきた。

 だが、負けたことは一度もない。

 いつも、初級火属性魔法エビルファイアで、一瞬で勝利してきた。


 リードハルトは俺を睨んでいる。

 顔や表情だけ見れば、いかにも勇者っぽいが、剣術も魔法も取るに足らない上に、性格がクズ中のクズだ。


「どうしたリードハルト! かかってこい!」

「カウンター狙いの作戦か! その手には乗らないぞ」

「はぁ? カウンター? どうしてそういう発想になるんだよ」


 リードハルトはバカだとしか思えない。

 カウンターも何も、いつも俺に手も足も出ずにやられている。

 もしかして、良い勝負をしているつもりだったのか。

 だとしたら、バカ過ぎるだろう。


「カーライル! いつもと同じだと思うなよ!」

「何! どういうことだ」


 リードハルトはそう言うと、剣を振りかざした。

 魔法を詠唱しているようには見えないし、どういうことだ。

 やっぱり、バカなのか。


「うおっ!」


 どこからか放たれた矢が、俺をめがけて飛んできた。

 リードハルトの剣なんかよりも数倍鋭いその矢を、俺は紙一重で避け、矢の飛んできた方向を見据えた。


「っち、外した」


 聞き覚えのない声、そして、遠くにおぼろげに見える人影。

 矢を放ったのはアイツだな。

 だとすると、リードハルトのさっきの動作は合図だったということか。


「ダース!」


 リードハルトが大声で言った。

 矢を放ったヤツの名前だろう。

 まぁ、俺が紙一重で避ける矢を放ったのだから、リードハルトよりはできるのだろう。


「リードハルト、大丈夫か!」

「すまない、助かった」

「アイツがカーライルか、聞いていたよりも強そうだな」

「ダース、俺が引き付ける。その隙にその矢で貫いてくれ」


 リードハルは俺に向かって物凄い勢いで走ってきた。

 そして、ダースは次の矢の準備をしている。

 矢は僅かにオーラのようなものをまとっている。

 おそらく魔力が込められている。

 だが、魔力が込められているということは、俺は感知できるということだ。

 避けるのはわけない。


「カーライル! 準備はできた! 離れろ」

「よし! 頼むぞ、ダース」


 こいつらは、俺が魔力を感知できることを知らない。

 どこから矢を放っても、矢の魔力を感知すれば、俺は避けることができる。


 リードハルトは剣を両手持ちにして、全力で斬りかかってきた。

 両手持ちすることで、威力は倍になるが、当たらなければ意味はない。


 そして、背後からは魔力の矢が迫ってくる。

 速さからいって、あと0.7秒で到達するだろう。


 俺は矢を避けた。

 そして、ダースから先に片付けようと思い、背後に回り込んだ。


「ダース! 後ろだ」

「ふふ、遅い。さらばだ、クソ勇者パーティーのアーチャーよ」


 俺はダースめがけて、エビルファイアを放とうとした。


「カーライル! そこまでだ!」

「なに!」


 驚いたことに、リードハルトはロクサーヌの喉ぼとに剣を突きつけた。


「ははは、これでもダースをやれるのか、カーライル!」

「おい、お前って本当に勇者なの? それって勇者としてどうかと思うぞ」

「うるさい! 勝てばいいんだよ」


 やはりコイツはクズだ。

 勇者としてというより、人間として大事なものが欠けている。


「カーライル様! 助けてぇ!」

「ロクサーヌ、すぐ助ける。大丈夫だ」

「はい……」


 ロクサーヌを助け出すことは容易い。

 だが、ここはリードハルトの外道ぶりをもっと見せつけて、ロクサーヌをもっと俺に惚れさせた方がいいだろう。


「リードハルト、勇者がそんな汚いことしてもいいのか? この町の住人も見ているんじゃないのか」

「はは、住人などいくらでも騙すことができる! 大事なのは国王の評判だ! 住人は国王に会うことはできないからな、この戦いをチクることはできない」


 聞けば聞くほど、外道なことがわかる。

 魔界にもここまでのクズはいない気がする。

 だが、これで十分だろう。

 ロクサーヌの顔を見れば、リードハルトに対する信用は完全になくなったのがわかる。


「ユート」


 俺はユートの魔法で、リードハルトの後ろに一瞬で移動し、ロクサーヌを取り戻した。


「カーライル様、ありがとうございます」

「このくらい、何でもない」

「カーライル様……、嬉しい」


 もうそろそろ、決着をつけてもいいだろう。

 と言っても、いつものエビルファイアをくらわせるだけだがな。


「2人まとめて焼き尽くしてやる。エビルファイア-クロス!」


 俺の掌から放たれた業火は、リードハルトとダースを焼き尽くした。


「うわああああああぁ!」

「ぐあああああああぁ!」


 2人は3秒ぐらい俺の炎に焼かれた後、移動アイテムでこの場を離脱した。


「カーライル様、また来てくださったんですね」

「ああ、魔界へ行くと約束しただろう」

「はい、カーライル様となら、どこでもいきますわ」


 勇者たちを倒すのはわけなかったが、問題はここからだった。

 これからユートの魔法で、真実の泉に戻らなければならない。

 マイネイの話では、俺の魔力なら問題ないらしいが、やってみないとわからない。


 だが、俺は魔王デスカールの息子にしてエリート中のエリート。

 生まれつき強大な魔力を持ち、あらゆる魔法を習得している。


 俺にできないはずはない!


「ロクサーヌ、しっかりと俺につかまっていろ」

「はい、カーライル様」


「ユート!」


 俺とロクサーヌは一瞬でこの場を離れることができた。


 そして、問題の次元の壁も問題なく通過し、真実の泉へ戻った。

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