第7話 スレンダー美女のために

 ううぅ、ここは……。


「カーライル様、カーライル様」


 この声は、マイネイ。

 ということは、真実の泉に戻ってきたということか。


 意識を取り戻した俺は、周りを見渡し、ロクサーヌを探した。

 だが、ロクサーヌの姿はどこにもなかった。


 俺は思わず歯軋りをした。

 いくら強大な魔力を持つ俺でも、魔力を持たない人間を感知することはできない。

 今の俺ではロクサーヌを見つけることは難しい。


「マイネイ、人間の女も一緒じゃなかったか」

「はて? 人間はいませんでしたな」

「そうか」


 俺はわけがわからなくなっていた。


 真実の泉に吸い込まれ、リードハルトを空から見物し、宿屋で俺の体が実体化し、最後にロクサーヌとキスをした。

 だが、その後のことが思い出せない。

 ロクサーヌとキスをして、気が付くとこの泉に戻ってきていたのだ。


 ロクサーヌは魔界に来ることを受け入れていた。

 何としても、ロクサーヌを探し出し、魔王城で幸せにしてやりたい。


「マイネイ、真実の泉の中でロクサーヌという人間の女と出会った。一緒に魔界で暮らす約束をしたのだが、はぐれてしまった。どうしてだ?」

「難しい話ですねぇ」

「確かに、俺にもわからないことばかりだ」

「深層意識で人間の娘と出会った……。そんな話は聞いたことがありません」

「そうか……」


 どうすれば、ロクサーヌを探すことができるのだ。

 魔力は使えないし、一体どうすれば……。


 少しの間、沈黙が続いた。


 マイネイは黙ったままで、何か考えているようだった。


「カーライル様、1つ手があります」

「なんだ、言ってみろ」

「もう一度、真実の泉を覗くのです」

「何! もう一度、あの泉を」

「はい、今のカーライル様なら、泉を覗くことで、ロクサーヌに会えるかもしれません」


 なるほど、そういうことか。

 真実の泉は覗いた者の悩みを叶える泉。

 つまり、ロクサーヌに会いたいという悩みを持った俺が覗けば、その悩みは解決されるというわけか。

 俺の想いは本物だし、悩みが解決される可能性はおおいにあるだろう。


「いいぞ、マイネイ。ナイスアイデアだ」

「恐れ入ります」


 だが、気になることもある。

 俺の目的は、ロクサーヌを魔界へ連れていくことだ。

 泉の中の世界でロクサーヌに会えたとして、また1人で戻されたのでは、たまったものではない。

 ロクサーヌと一緒でなければ、意味がないのだ。


「マイネイ、また俺1人だけ、戻されることはないのか?」

「ありえます」

「じゃあ、ダメじゃないか」

「いいえ、カーライル様はユートの魔法が使えますでしょう」

「ああ」

「ロクサーヌに会ったら、ユートの魔法で脱出を試みてください」


 ユートの魔法だと!

 確かにユートは移動魔法で、俺のような使い手が唱えれば、一瞬で移動できる。

 だが、泉の中の世界でも通用するのかはわからない。


「泉の中の世界から抜け出せるのか?」

「そこが問題なのですが、私の予想では、カーライル様のような魔力があれば、時空の壁を超えて戻ってくることができるはずです」

「時空の壁!」

「ええ、真実の泉から別の場所に移動する時は、一旦、時空の壁をこえます。移動先が現実の世界であってもです」

「ほう、なるほど」

「つまり、並の魔力の者がユートで戻ろうとしても、時空の壁を超えることができず、下手をすれば、時空間に閉じ込められます」

「うむ」

「ですが、カーライル様なら、カーライル様の強大な魔力があれば、時空の壁を突破し、無事戻ってくることができるでしょう」


 ふむふむ、マイネイの説明は理にかなっているように思える。

 俺の魔力があれば、時空の壁を超えて、ここに戻ってこれるというわけだ。

 なかなかいいんじゃないのか、それは。


「よし、やってみよう!」

「おお、決断なされましたな。さすがはカーライル様」

「マイネイ、いいアドバイスありがとう。助かったぜ」


 ロクサーヌ、待っていろよ。

 絶対に連れ戻してやるからな。

 そして、城に戻ったら、俺の部屋で濃厚な時間を過ごそう。

 あのキスよりも熱くて激しい二人だけの時間を。


 そして、ロクサーヌとユーフェンがいれば、3人で俺の部屋で楽しむことができるだろう。

 ムチムチサキュバスのユーフェン。

 スレンダー美人のロクサーヌ。

 これはもう、すごいことが起こりそうだ。


 そのためにも、ロクサーヌは絶対に連れて帰らないといけない。


 決意を新たに、俺は泉の前に立ち、顔を近づけた。

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