第5話 再び真実の泉へ

 ユーフェンは朝早くこの部屋を去っていった。


 このベッドにはまだユーフェンの余韻が残っている。

 俺はあの何かに満たされたようなユーフェンの表情が忘れられない。

 今までで最高の夜だった。


 だが、浮かれてばかりはいられない。

 今日はやることがあるからだ。


 それは、もう1度真実の泉に行くことだ。


 真実の泉でユーフェンはあれだけ綺麗になった。

 多分、真実の泉には見た者の力を引き出す何かがあるのだろう。


 俺は真実の泉の秘密が知りたいのだ。


「カーライルよ、今日はまた真実の泉へいくというのか」

「はい。どうしても確かめなければならないことがありまして」

「うむ、お前がそう言うのなら、止めはせぬ」


 父であるデスカールの許可も得た。

 早速、行ってマイネイに泉のことを聞き出さなくては。


「カーライル様、今度、お部屋に行ってもよろしいですか?」

「カーライル様、私もお部屋に行きたいです」

「ちょっと、抜け駆けはなしよ」


 エルフたちは、今日も元気だ。

 だが、俺の心はユーフェンのことで一杯だ。

 あんな夜を過ごせば、誰だってそうなる。

 このエルフたちは、中々スタイルが良いし、顔も俺の好みだが、ユーフェンの味を知ってしまった俺からすれば、その他大勢のモブキャラにすぎない。

 まぁ、時間があれば相手をしてやるか。


 よし、では真実の泉へいくぞ。


「ユート!」


 はは、真実の泉に到着だ。

 まだ2回目なのに、何故か何回も来ているきがする。

 まぁ、昨日、ユーフェンがあれだけ美しくなる様を目の当たりにしたのだから、仕方がないか。


 ユーフェンは本当に美しくなった。


 それに、昨日の夜は最高だった。

 虚ろな目、赤らめた頬、それにとても情熱的だった。

 今までのユーフェンではなく、性格まで変わってしまったと思うくらいに、昨日のユーフェンは輝いていた。

 俺とユーフェンは何度も、お互いの気持ちをぶつけ合い、受け止め合った。

 ああ、ユーフェン。

 今度はいつ、俺の部屋に来てくれるんだ。


「カーライル様」


 マイネイはいきなり現れた。

 俺がユーフェンのことを考えていたから、気が付かなかっただけなのだが、少し驚いた。


「マイネイ、また来たぞ」

「どうなされました?」

「真実の泉について知りたくなってな。昨日、あんなものを見せられては、無理もないだろう」


 そうだ、全てはユーフェンが真実の泉に取り込まれ、より美しくなったことがきっかけだ。

 ユーフェンは本当の自分が知りたいと、この泉に来た。

 そうしたら、最上級の美を手に入れることができた。


 だったら、俺には何が起こるのか知りたくなるのが、当然だ。

 俺は見た目が良くなりたいとは思っていないが、本当の自分というものには少し興味がある。


「マイネイ、俺がこの泉を覗き込んだら、どうなるんだ」

「カーライル様が、ですか?」

「そうだ、俺がだ」


 マイネイは少し思いつめたような表情になった。

 ネクロマンサーというのは、並の魔物よりも知力が高く、質問に答えられず悩むということは滅多にない。

 そんなマイネイが、これほど考え込んでいるとは、ただごとではない気がする。


「申し上げにくいのですが、カーライル様がこの泉を覗き込んでも、何が起きるのかわかりかねます」

「何! どういうことだ」

「カーライル様は何か悩みはおありですか?」

「悩み?」


 意外な質問だった。

 考えてみれば、俺には悩みというものがなかった。

 魔界の超エリートとして生まれ、絶大な魔力を誇る俺に、悩みなどあるはずがない。

 あるとすれば、女にモテすぎて相手をするのに時間がかかるとか、クソ勇者リードハルトがウザいとか、それくらいか。


「言われてみれば、俺に悩みはないな」

「実は、この真実の泉というものは、覗き込んだ者の悩みを映し出し、それが本当の悩みなら、解決するというものなのです」

「なるほど」

「昨日のユーフェンは、本当に綺麗になりたいと、心の底から思っていたからこそ、より美しくなれたのです」


 俺はそれを聞いてかなり嬉しくなった。

 俺に気に入られるためにより美しくなりたいというユーフェンの気持ちに嘘はなかったのだ。


「ちょっと待て、悩みのない俺が覗き込んだら、どうなる」

「それはわかりかねます」

「お前ほどの知識と知力がある者でもわからないのか」

「そうですねぇ、もっと本質的な説明をしますと、この泉は覗く者の深層を映し出すということです」


 悩みの次は深層か。

 まぁ、悩みのあるヤツは深層も悩みで満たされているから、全く関係ないということではないと思うが、どちらにしろ、俺には関係なさそうだ。


「マイネイ、結局、よくわからないぞ」

「そう申されましても、カーライル様のような完成された魔物が、この泉を覗き込んだことは、過去にはありませんからねぇ」

「わかった。それじゃ、覗き込んでみることにする。ここでおしゃべりしていても、何もわからないからな」


 俺はワクワクしてきた。

 前例がないなんて言われると、やってみたくなるのが、俺の性分なのだ。


「マイネイ、俺はこの泉を覗き込む、いいな」

「カーライル様がそうおっしゃるのなら、私に止める権利などありません」

「そうか、それじゃあ、遠慮なくいかせてもらうぜ」


 俺は泉の前に立ち、ユーフェンがやったように、水面に顔を近づけた。

 俺の顔が水面に写し出された。


「!」


 えっ、なんだこの感覚は。

 水面に吸い込まれる!

 ヤバイ、止まらない。

 顔がどんどん泉の中に埋まっていく。


「カ……ル様!」


 えっ、聞こえないって。

 マイネイ、何言ってるの?


 本当にどんどん吸い込まれる。

 これ大丈夫か……。


 こうして俺は泉に吸い込まれてしまった。

 これで、俺の深層がわかるのだろうか。


 だんだんと意識はなくなっていき、気が付くと今まで見たこともない光景を見ていた。

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