第3話 サキュバスを助けてウハウハ

 クソ勇者のリードハルトをあっさりと退けた俺の活躍は、すぐに魔界中に広まっていった。


 これ以上、俺の評判が上がっても意味がないのはわかっているが、勇者が弱すぎるから、俺の評判はどんどんと上がってしまう。


「カーライル様」

「ああ、コイルか。どうした?」


 ヴァンパイアのコイルが俺に話しかけてきた。

 コイルは老ヴァンパイアで、珍しい魔術の使い手だ。

 ヴァンパイアは人間の血を糧にしているから、人間たちのターゲットにされやすい。

 昔、人間に追われているところを助けたことがきっかけで、コイルは俺を慕うようになった。

 自分よりも遥かに年上のヴァンパイアに慕われるのは、少し恥ずかしいが悪い気はしない。


「サキュバスのユーフェンが真実の泉に行ったまま、帰って来ないようです」

「ユーフェンが!」

「はい、昨日の夜に、本当の自分を知るために泉にいったのですが、まだ戻っていません」


 ユーフェンはサキュバスの中でも絶世の美女として、魔界中に名を轟かせている。

 もちろん、ユーフェンは俺にぞっこんだから、たまに俺の部屋に遊びにきてくれて、二人で濃密な時間を過ごしたりしている。


 そのユーフェンが戻らないのであれば、助けに行くしかあるまい。


「真実の泉だな」

「はい。あの辺は、魔物になりきれないゾンビがうようよしています」

「哀れなゾンビどもめ。俺の魔法で焼き尽くしてくれる」


 俺は移動魔法ユートで真実の泉へ行った。


「おお、カーライル様、お久しぶりです」

「ああ、マイネイ。久しぶりだな。ところで、ここにユーフェンは来ていないか?」

「サキュバスのユーフェンですね。見ていませんが……」

「そうか……」


 マイネイはネクロマンサーで、この真実の泉を守護している。

 真実の泉は人間界に近い場所にある。

 そのためか、魔物になりきれなかったゾンビや、人間の悪党も、この辺には多くいる。

 そういった連中からこの場所を守るのが、マイネイの役割だ。


「ここに来る途中にゾンビにでも襲われたのでしょう」

「そうか、わかった。それじゃ、近くを探してみよう」

「はい、お気をつけて」


 ユーフェンを探すのは簡単だ。

 俺は魔物の魔力を感知することができるからだ。

 魔力を感知する能力は、魔物なら誰でも持っているが、その範囲と精度は使う者の魔力に大きく依存する。

 つまり、俺のような強大な魔力を持っていれば、かなり広範囲に正確にユーフェンの魔力を感知できるというわけだ。


 …………


 見つけたぞ!

 ここから南西に少しいったところだな。


「ユート!」


 ここは森林の中か。

 真実の泉の周りは森林だから、そう遠くには来ていないのだろう。


「!」


 見つけた。

 思った通りだ。

 ユーフェンはゾンビどもに追われていた。


「ユーフェン! 今助けるぞ」

「カーライル様」


 ゾンビは死んだ人間のなれの果てだが、人間の記憶や怨念が残っていると、魔物に対する憎悪が残ったまま、肉体だけは魔物化してしまう。

 こいつらもそうだ。

 人間の頃に魔物に襲われた記憶でも残っているから、死んだ後も魔物に対する恨みが消えずに、魔物を襲うようになったのだろう。


「これで、跡形もなく燃やし尽くしてやる」

「エビルファイア-クロス!」


 ゾンビどもは一瞬で俺の放った炎で焼かれ、灰も残らずに消え去った。

 ここまで徹底的に焼き尽くせば、蘇ることはない。


「カーライル様」

「ユーフェン、無事か」

「はい、カーライル様」


 いつ見てもユーフェンは美しい。

 服を着ていてもわかる、素晴らしいプロポーション。

 長くしっとりとした流れるような髪。

 少し垂れた優しい瞳。


「カーライル様、ありがとうございます」

「ユーフェンが戻ってこないって聞いてな。心配で助けに来た」

「本当に怖かった」


 ユーフェンは俺に抱きついてきた。

 ユーフェンの柔らかく暖かい体を、俺は受け止めた。


「カーライル様…」

「ああ、もう心配するな」


 俺はユーフェンに顔を近づけ、そのまま唇を奪った。

 ユーフェンは俺を受け入れた。


 しばらく抱き合ってから、俺たちは真実の泉に戻った。

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